書物
岩波文庫の旧版*1で読んだ(松浦嘉一訳)。訳語はとうぜん古めかしいが、こっちのほうがどうもアリストテレスを読んだ、という気になれる。この本の解説には「修辞学」からの引用がいくつかあって、それを現行の訳(戸塚七郎訳)と対照してみると、やっぱり…
いま勤めている会社がつぶれそうなので、ふと思いついて手にとってみた(黒田正利訳、岩波文庫)。やはり思ったとおり、この本は会社の経営にも応用できる。そういう読み方が邪道であることは承知しているつもりだが、いまの私にはそんなふうにしか読めない…
彼女の「ヴィオリータ」を読もうと思って探したら、「トーマの心臓」所収となっていたのでこれを中古で購入。で、先にこれだけ読んだ(小学館、1978年)。少女マンガにあまり慣れていないせいかもしれないが、このマンガ、とてつもなく読みにくい。何度…
前にドイツに注文していたのが到着(S.フィッシャー書店、1988年)。届いた本を見て、ちょっと意外な気がした。というのも、この本の邦訳(ありな書房)を前に本屋でみたときは、値段が高いこともあって、ずいぶん浩瀚な書物といった印象があったから…
こんなことをいうと傲慢と思われるかもしれないが、私はボードレールに関してはその「すべて」を知っている。彼について未知のことすら知っている。もし彼が死んだのはペストのせいだといわれても、あるいは彼が若いころ娼婦を殺したことがあるといわれても…
この前読んだ「易の世界」に「老子は荘子とくらべて現実政治的」というような記述が出ていた。そういえば前にryotoさんの日記を読んだときも同じようなことが書いてあった。これは私の印象とだいぶ違っていて、老子といえば政治とは無縁の玄妙な神秘思想みた…
しばらく前からちびちびと読んでいたのをようやく読了(中公文庫、1994年)。題名のとおり、易への親切な入門書になっている。易といえばもちろん占いだから、理論と実践とが含まれるわけだが、この本はその両者への配慮が行き届いていて、私のような中…
少女愛文学の九冊目(昭和36年、光文社)。これはすごい、を十回くらい繰り返したくなるような小説。なんというか、私の心の琴線をめちゃくちゃにかき鳴らしてくれる。こういう傑作がさりげなく出ていた六十年代はやっぱり偉大な時代だった。小説一般には…
少女愛文学の八冊目(村岡花子訳、新潮文庫)。いまさら「赤毛のアン」なんて……と思っている人は多いだろう。私もそうだった。といっても、この「いまさら」には二通りの意味がある。ひとつは、子供のころ読んでおもしろかったが、それをいまさら云々するの…
少女愛文学の七冊目(松本恵子訳、新潮文庫)。なるほど、そういう仕掛けがしてあったのか、と種明かしをされてようやく気づく。「その瞬間、私の頭にその事実がひらめきました。でも、私ってなんて鈍感なんでしょう。もう少し才知があったら、無数の小さな…
少女愛文学の六冊目(村岡花子訳、角川文庫)。これにはまいった。後半はずっと泣かされっぱなし。ひとことでいえば少女版「小公子」*1のようなお話なのだが、パレアナはさすがに(?)牧師の子だけあって、「喜びの遊び」を家のなかだけにとどめず、町じゅ…
少女愛文学の五冊目(長島良三訳、角川文庫)。これは1969年の作品。解説によれば1970年の「エル」誌の読者大賞に選ばれたとのことで、書評には「愛についての面白い本。重要な作品である」「もっとも美しい本の一つ」「このような感動と尊敬を同時…
この本(角川文庫)は訳も解説もいい。吉田勝江さんはオルコット関連の本をかなり訳していて、「不屈のルイザ」という伝記の訳まであるらしい。こういう傾倒の仕方は非常に好感がもてる。ほんとうにある作家を愛したら、ここまでいかないと嘘だという気がす…
少女愛文学の四冊目(吉田勝江訳、角川文庫)。これはすばらしい。同じく家庭小説といっても、前に読んだ「少女レベッカ」よりは格段にすぐれている。親が子にすすめたくなる小説の筆頭ではないだろうか。私も子供のころにこれを読んでいたら、と思う。そう…
少女愛文学の三冊目(石井桃子訳、角川文庫)。少女愛といっても、これはとくに少女を主人公にしているわけではない。ごくふつうの児童文学。作者はたぶんコボルトの伝説と「三つの願い」の寓話からこの物語を作ったんだと思う。全体の調子がなんともいえず…
少女愛文学のふたつめ(大久保康雄訳、角川文庫)。これはダメだった。主人公のレベッカをいい子に仕立て上げすぎているし、それだけに彼女を取り巻く大人たちのえこひいきがまた尋常ではない。民主主義の風上にもおけない小説。小さい女の子が読んだらそれ…
前にあげた「少女愛文学」読破計画の一回目(井上一夫訳、ハヤカワ文庫NV)。これはいわゆる(?)「不可能の愛」をテーマにした小説。私はこういう物語に弱い。成就した愛よりも成就しなかった愛のほうがずっと美しいと思うからだ。それになんというノス…
この本が一般の哲学書と決定的に違うのは、「感情」にかなり重点をおいて書かれているところだろう。それは人間の幸不幸を考えた場合、理知的な面よりも感情に支配される面のほうが多いことを考えれば当然のことかもしれない。経験的にいっても、なにが幸で…
畠中尚志訳の岩波文庫。題名に「幾何学的秩序に従って論証された」とあるとおり、はじめに定義と公理とが書き出してあって、本文は定理と呼ばれるいくつもの命題の連鎖とその証明からなっている。こういうもったいぶった書き方のせいで、この本はひどくとっ…
西田によるフィヒテの訳書の「序」の文体が気に入ったので買ってみた(岩波文庫)。その「序」というのは、こんな感じの文。「……併し大思想家の書を我国語に訳することは、単に他国語を知らざるものをしてその思想を理解せしむるのみでなく、我国語をしてそ…
野島秀勝訳の岩波文庫(2007年)。「阿片常用者の告白」の20年後に書かれたいわば続篇のようなものだが、内容としてはあまり関係がない。この本はどうも第二部の途中で作者が筆を折ったらしく、尻切れとんぼに終っている。といっても、もともとが断章…
この本はあとになればなるほどむつかしくなる。第一部「全知識学の根本諸命題」がわりあい明快だったので安心していたが、とんだ誤算だった。おかげで読むのにひどく暇がかかってしまった。しかし、これは読んでいいことをしたと思う。フィヒテは哲学史的に…
大枚はたいて購入(三修社、POD版)*1。まだざっと一瞥しただけだけれども、なにしろ古い本なので、レイアウトその他、およそスマートとはいいがたい。ただその分、なんともいえないごつごつした手作り感があって、読めば読むほど味わいがましそうな、と…
ドイツ神秘主義の最後の頂点といわれるヤコブ(ヤーコプ)・ベーメの処女作(征矢野晃雄訳、牧神社、1976年)。これは大正10年に大村書店という本屋から出たものの復刻版、というかファクシミリ版で、誤記、誤植も含めてそっくり復元してある。こうい…
久しぶりに新刊書店に行ったときに買ったもの(木村素衛訳、岩波文庫)。新刊書店に行きながらこんな古い岩波文庫を買ってしまう自分が情けない。おもしろそうな本や話題の本はいっぱいあるのに、だ。だれかのエントリーに「貧乏人は古典を読め」とあったが…
前に上巻だけ読んで放置していたもの(柴田治三郎訳、中公文庫)。ゲーテの影響で最近ちょっとイタリアづいているので、とりあえず下巻も読んでおこうと思って手にとった。いまさらわたくしごときがあれこれいう必要もない古典だが、この本、最近のルネサン…
私の好きな宇能氏の旅行エッセイ集(中公文庫、1980年)。もともと1968年に日本交通公社から出た本を文庫化したものらしい。日本全国、北から南まで縦断して、各地のうまいものを文字通り食い倒した記録である。私は食べ物エッセイはわりと苦手なほ…
小池滋訳の岩波文庫(1994年)。ギッシングが晩年(といっても彼は46歳で死んでいる)、健康が衰えてからこころみたイタリア旅行の記録で、訪れた町は、パオラ、コゼンツァ、タラント、コトローネ、カタンツァーロ、スクィラーチェ、レッジョとなって…
1787年6月、シチリアからローマに舞い戻ったゲーテは、翌年4月まで10ヶ月のあいだこの地に滞在する。この下巻はまるまるその第二次ローマ滞在の記述にあてられている。あいかわらずあちこち出歩いてはいるものの、これはもはや紀行というよりもむし…
上巻(ローマ篇)とは打って変って、この中巻(ナポリ、シチリア篇)はじつにすばらしい。ローマでのゲーテはかつて書物などから得た教養というものに縛られていたようなところがあるが、ナポリへきてようやく彼本来の自然人としての資質を取り戻したかのよ…