牧神

「牧神の午後」散文訳(その4)

残念だが仕方がない。あの至福の境地へは、ほかの女が連れていってくれるだろう、その編んだ髪をおれの額の角に結びつけて。しかし、わが情熱よ、おまえは知っている、どの柘榴もすでにまっ赤に熟れて、その笑み割れた実のまわりには、蜂がぶんぶんうなって…

「牧神の午後」散文訳(その3)

だから、逃避の楽器よ、いたずらものの葦笛の精シランクスよ、もう一度あの湖で若々しい花を咲かせておれを待っていてくれ。自分の評判が自慢のおれは、女神たちについて長々と語ろう。そして偶像のように熱愛する彼女らを絵に描いて、その影像から帯までも…

「牧神の午後」散文訳(その2)

「おれはここで、たくみの手によって馴らされたうつろな葦を折っていた。そのとき、はるか彼方、金色に照り映えた緑草が葡萄の蔓を泉に捧げているあたりに、なにやら白いものの姿が憩っているのがゆらゆらと見えた。この一群の白鳥、ではなくてナイヤードは…

マラルメ「牧神の午後」散文訳(その1)

あのニンフたちを永遠に自分のものにしたい。夢ともうつつともつかぬ空の下で、彼女らの軽やかな肌の色は、なんとあざやかに宙に舞っていることか。おれが愛したのは夢だったのか。夜ごと積み重なるおれの疑いは、いまや多くのかぼそい小枝になってしまった…