書物
この前読んだプラーツの「ムネモシュネ」と同じようなテーマを扱った論稿。1980年にブリュッセルで行われたクノップフの回顧展の際の講演記録らしい。そういうものだから、突っ込んだ議論を期待しても仕方ないが、しかし薄っぺらいなりに私には教えられ…
かつて美術出版社から出た訳本を不可として高山宏が新たに訳しなおしたもの(ありな書房、1999年)。しかしこれをもって邦訳決定版とするのならもう少し校正をしっかりしてほしかったと思う。ありがちな変換ミスが散見するのは残念だ。「名ずける」とか…
ポオの「ユリイカ」と並行して読んでいたもの(吉田洋一訳、岩波文庫)。じつはこっちのほうを先に読了したのだが、感想が書きにくくてほうっていた。まあモノがモノだけに私が感想を書く必要もないのだが。ポアンカレについてはとくに関心があったわけでは…
細切れの時間をなんとかやりくりしつつ読了。ポオの最晩年の著作とのことだが、もうこのころになるとかつての「印象と効果」の理論家ポオは影をひそめて、その代りに彼の生地である中二的心性が全開になっている。中二的といっても貶しているのではない、む…
アマゾンからストリンドベリの「死の舞踏」の紹介メールがくる。なんでいまごろ私のところへ「死の舞踏」への招待が? それにはアマゾンなりの理由があるんだろうが、それはともかくとしてこの戯曲、大昔に読んだ記憶をたどってみると、主人公がなんとなくサ…
読んだ感想をひとことでいえば「最低!」なのだが、それだけではあんまりなので、いちおう所感のようなものを書いておく。訳者のあとがきによれば、この長篇が評判になったのは、作中における「残虐きわまりない殺人場面」のためらしい。しかし私はそれらの…
またしても詩の話で恐縮だが、「ウェブでしか読めない西脇順三郎」というサイト?があって、そこに由良君美の書いた回想録が出ている。あまりにもベッタベタの讃辞なので読んでいて気恥ずかしくなってくるが、そういえばこの人は「みみずく英学塾」でも同じ…
高山宏の最新の訳本(白水社)。かなりの大冊で読むのに苦労したので、ちゃんとした感想を書いておくべきか、と思ったが、やめにした。というのも、この本でほんとに自分の血肉になったなあ、と思うのは序論とエピローグだけで、肝腎の本論のほうはよくわか…
サイコパスにはこの世界がどんなふうに映っているのか、かりにサイコパスになったつもりでこの世を眺めたらどんなふうに見えてくるのか、と考えていてふと頭に浮んだフレーズがある。それは「かりに狂犬のこころもちになって世の人を見たならば、かくもあろ…
ルナールの長篇小説だが、こんな内容だとは思わなかった、これではまるでポルノ小説ではないか。後半はずっともやもやのしっぱなし。十九世紀末版「危険な関係」ともいうべき小説(高木佑一郎訳、白水社、昭和12年)。これはじつに不道徳な、けしからん本…
古本屋で見かけて、最初のほうに「正法眼蔵」からの引用があるので「おお…」と思って買ったものの、どうも私の求めているような方向の本ではなかった。そればかりではない、読んでいるうちにだんだんムカついてくる。このムカつきは腹立ちとは違う、呑み込め…
ツイッターをやっていたころ、歴史好きの人も何人かフォローしていたが、どういうわけかフランス革命のフの字も出てこなかった。フランス革命、もう今では人気がなくなったのだろうか。私が若いころは、「ベルばら」効果もあって、その方面の本はけっこうな…
「書物」タグをつけたが、読んだのは近代デジタルライブラリーのもの。 血笑記 : 新訳 - 国立国会図書館デジタルコレクション 二葉亭のことがちょっと気になって、まずはネットで「あひびき」を読んでみたら、意外に自分の好みと合致したので、次にアンドレ…
「草枕」もまだ読んでなかったのか、と呆れられるかもしれないが、私の未読の漱石は多い。むしろ読んだもののほうがはるかに少ない。それにはちょっとした理由があるのだが、その話はまたいつかすることにして、この「草枕」。これは小学生のころ買ってもら…
ドストエフスキーの第二作で、発表当時からあまり好評ではなかったらしい。しかし二十五歳ですよ、作者がこれを書いたのは。それだけでも私なんかはうーんと唸ってしまう。この作品はたしかに世評のとおり冗長かもしれないが、退屈ではまったくない。じっさ…
奇書といえば何番目かに必ず名前の出てくる本(朱牟田夏雄訳、岩波文庫)。それにしてもこれはとんでもない本だ。序盤が終ってようやく佳境に入りはじめた、まさにその部分で話が中断している。ただ、未完のくせにあまり未完らしくないのは、もし作者がこの…
ベレン(Belen)ことネリー・カプラン(Nelly Kaplan)が La Jeune Parque という本屋からアンドレ・マッソンの挿絵つきで出した短篇集(1966年)。これを紹介したいと思ったが、あまりうまくできそうもないので、そのなかの一篇を見本として訳すことに…
先日読んでいたく感心したフランシス・ジャムの「三人の少女」が取り上げられているというので買ってみた(河出書房新社、2009年)。だれだかわからない少女に宛てて書かれた手紙の集録という体裁をとっている。全体は十章に分けられていて、それぞれの…
id:seemoreglassさん経由で知った「薔薇は生きてる」という書物は、かつてこの世で人に愛しがられていた少女の可憐な幽魂を私のもとに送ってきた。私の部屋は反魂香の匂いならぬ薔薇の香りがときめいて、仄のりとした息吹が私の胸をせつなくする。それゆえ私…
読んだ本の感想を書くのもずいぶんサボっていて、ツイッターに数行書くだけで満足するようになってしまった。そもそもブログというのは時事性とともに生きているようなところがあって、新刊書の感想(というか紹介)には意味があるとしても、100年前に原…
岡田氏の中公新書の三冊目だが、けっきょくのところ題名につられて買った人には多大の失望を与えるような本だ。それにしても、いまどき客観的な「音楽の聴き方」を書物に求める人がいるだろうか。私がこの本に期待したのも、客観的かつ一般的な「聴き方」で…
調べてみると、この作品、青空文庫にも入っている(→ハンス・クリスチアン・アンデルセン Hans Christian Andersen 森鴎外訳 即興詩人 IMPROVISATOREN)。けっして読みにくくはないが、しかしこの長さをパソコンで読み通すのはちときびしい。こういうのはあ…
とりあえず上巻読了(岩波文庫)。明治の翻訳文学の傑作とされているもので、いずれ一度は、と思っていたが、ようやくいまごろになって読んだ。鴎外は私にとっては無敵の人である。ボードレールがゴーチエについていったimpeccableという形容は、ゴーチエよ…
著者が英語で書いたエッセイを鈴木俊郎が訳したもの(岩波文庫、改訳版)。題名はものものしいが、内容はきわめて平明な文で書かれている。これは著者なりの「或る魂の発展」であって、じっさいこれを読んだストリンドベリは「青い本」に感想を書きとめてい…
岩波文庫のユートピア文学の四冊目(山本政喜訳)。もうそろそろ食傷気味かな、とも思うが、この本はおもしろかった。たぶんロマンス*1としての出来では他の三冊を圧倒している。ここに述べられた理想郷としてのボストン(2000年のボストン)にしても、…
スイスの文豪マイエルの長篇連作詩集(浅井真男訳、岩波文庫、昭和16年)。読む前はフッテンが人名とは知らず、「ポンペイ最後の日」からの連想で地名か何かかと思っていた。ウルリヒ・フォン・フッテンは実在の人物で、プロテスタンティズムの闘士であり…
岩波文庫のユートピアものの三冊目(松村達雄訳)。この本は便宜上(?)白帯に分類されているけれども、内容はほとんど文学作品なので、むしろ赤帯のほうが適当なように思う。そのことはとくに本書の後半に顕著で、そこで語られるテムズ河上りにはモリスの…
ユートピア文学の二冊目(山本政喜訳、岩波文庫)。岩波文庫にはけっこうユートピアものが入っているので順次読んでいくつもり。モアの本が理想郷を描いているのに対し、バトラーの描くエレホンはアデュナタ(さかさまの世界)である。「さかさま」というよ…
上野直昭訳による岩波文庫(1948年初版)。これは題名の示すとおり「観察」であって、「考察」でもなければ「研究」でもない。もともとカントはきわめて無趣味な人で、自室には絵の一枚もなかったというから、そういう人の書いた美学が美学プロパーでは…
恥ずかしながらいまごろ読んだ(平井正穂訳、岩波文庫)。訳文はすばらしく明快で、さすがに英文学は裾野が広いだけあって翻訳の質も高い。モアのユートピアはどこまでも二重だ。著者は一方の目で理想を追いながら、もう一方の目ではしっかりと現実を見据え…