2006-01-01から1年間の記事一覧
この前ちょっと言及したが、あらためていちおう書いておく(DECCA, ユニバーサル・ミュージック)。これはクナッパーツブッシュがウィーンフィルを振ったもので、前に聴いたカラヤン&ベルリンフィルとは好対照をなしている。後者が関東ふうで洗練されている…
手塚富雄の訳本の3冊目(岩波文庫)。カロッサなんて聞いたこともない名前だが、どうやら本職は医者のようだ。この本は彼が三十歳台なかばで書いた処女作らしい。青年医師のビュルゲルを主人公とする日記形式の物語で、ちょっと鴎外の「カズイスチカ」を思…
「ペンテジレーア」を探していたら、こんな本がみつかった(吉田次郎訳、岩波文庫)。いつ、どこで買ったのかまったく覚えていない。ともあれ、短いものだから、これを先に読むことにした。この小説は、分類としては歴史小説ということになるのだろうが、い…
中世を舞台にした恋愛喜劇(手塚富雄訳、岩波文庫)。喜劇といっても、笑うところより泣くところのほうが多い。じっさい、第三幕の後半などは涙で目がかすんで読むのに苦労する。ケートヒェンはジャンヌ・ダルクとウンディーネとを足して二で割ったような少…
Gothic Voices "The Unknown Lover, Songs by Solage and Machaut" (Avie Records, 2006)ソラージュの歌曲を12曲、マショーの歌曲を7曲、交互に並べた作品集。歌っているのはゴシック・ヴォイセズというヴォーカル・グループで、全曲アカペラだ。このCD…
手塚富雄訳の岩波文庫。これを読みながら思ったのは、「ニーチェさん、あんたヤバいよ、病んでるよ……」ということ。とにかく、このヤバさはじっさいに読まないとわからない。古語の「かたはらいたし」とはこういう状況をさしていうのだろう。読まなきゃよか…
田部重治訳の古い岩波文庫(1937年)。ディ・クィンシーは英文学では重要な存在だと思うが、翻訳はあまり出ていないようだ。何年か前に出た「著作集」も値段が高すぎて、一般にはあまり知られずに終ってしまったのではないか。ちくま文庫あたりで主だっ…
寝すぎて頭が痛い。起きるべき時間を8時間ほど超過してから目がさめた。昨日、はじめてピーターソンのアンプを現場で使ってみた。予想以上のすばらしさ。いままでの努力はいったい何だったんだ、と思う。やはりテクノロジーの力は大きい。と同時に、テクノ…
これはたぶん岩波文庫の青帯のなかでも有数の良書だと思う(田中美知太郎訳)。本文、解説ともに間然するところがない。いままで不得要領だったネオ・プラトニズムだが、この本を読んでその核心ともいうべきものをつかんだような気がする。プロチノスの思想…
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」は子供のころからのフェヴァリットだった。しかし、長いこと手持ちのディスクがなかったので、数年前、ビゼーの曲とカップリングになった廉価盤を買ってみた。で、それを最近とりだして聴きなおしているのだが、聴けば…
気がすすまないながらも読了(古在由重訳、岩波文庫)。この本はそもそもの成立事情にかなり問題があるらしく、ここで訳されているのは「フォイエルバッハ」の章全部と、「聖ブルーノ」および「聖マックス」の章の抄録だけ。そのことからもわかるように、こ…
恥ずかしながらベートーヴェンの偶数番シンフォニーを聴いたことがないので、先日、中古屋の棚をあさってみたが、偶数番どうしのカップリングはひとつもない。すでに知っている曲とのカップリングでは、お金を半分損したような気になってしまう(と、どこま…
モーツァルト・イヤーも残り少なくなってきた。ところで、今年の企画もので「モーツァルト大全集」というのが出ていたことをいまごろ知った。文字どおりの大全集で、24時間フルに聴いたとして、ぜんぶ聴くのに一週間かかるという膨大なもの。モーツァルト…
アンブロワズ・バブーフは珍種の茸みたいな顔をしていて、ぴかぴか光る二つの点がつまり彼の目なのである。彼は長いこと歴史学をやっていたが、その方法は学問的ではないと思っていた。最初はテーヌの方法にならって、回想録や新聞や通信記録などから事実を…
「ねずみさん、とシプリアンはいった、ほら、ここに五フラン札があるだろう。そこから一枚抜きとってください」 「はい、どうぞ、とねずみ嬢はいった、で、やることはこれだけ?」 「これはそんなにたやすい仕事ではないんだよ、とシプリアンはいった、ぼく…
「ユートピアの対話」に出てくる「とがりねずみ」ことリリ・ジョンキーユのモデルではないか、といわれているのがシャルロット・リゼスという女優だ。サッシャ・ギトリーの愛人で、どうやら親父のリュシアン・ギトリーとも関係があったらしい。そのせいか、…
シプリアン・ダナルクは四十がらみの男である。が、そのことをいうと怒る。世にある他のものと同様、年齢も彼には関わりがないというわけだ。背が高くて、干からびたように日焼けしていて、目つきは険悪、鷲のような顔にしょっちゅう薄笑いを浮かべていたが…
翻訳という作業は、たまに気晴らし(?)にやってみるけれども、いつも10行ばかり訳したらいやになってやめてしまう。で、書いた紙はそのまま丸めて捨てる。そして、ああ、また時間を労力とを無駄にしたな、とため息をつく。しかし、まれに根気のつづくこ…
下巻読了。これは相当に過激で、どこまでも真摯で、完全にまっとうな本だ。スティルネルはこの本で「神」を葬り「人間」を殺す。「人間」が死んだあとにやってくるのは「唯一者」だ。そして、この唯一者はおのれを神にひとしい存在に祭り上げる。上の文で括…
朝起きたらいきなり寒くなっていて驚いた。冬はきらいだ……冬はきらいだ、といえば、ドビュッシーの合唱曲「シャルル・ドルレアンの三つの歌」の第三曲を思い出す。冬よ、おまえはどこまでも鬱陶しい(yver, vous n'estes qu'un vilain)、と歌い出されるこの…
上巻読了(草間平作訳、岩波文庫)。いちおう青帯に分類されているけれども、白帯でもじゅうぶん通用するような本だ。つまり、実践哲学と社会科学との接点に位置しているのがこの本だということができる。それにしても、これはそうとうに風変りな本だ。その…
いま注目している某ページに紹介されていたので買ってみた(2001年、音楽之友社)。題名の「音楽の悪魔」とは、diabolus in musicaの訳でもあるらしい。これはれっきとした音楽用語(!)で、いわゆる三全音(トリトーヌス、トライトーン)のことをかつ…
下巻には「言葉に就いて」と「知識と蓋然性に就いて」が収められている。しかし、この二つは上巻に収められた「原理も観念も生得的ではない」および「観念に就いて」ほどには重要でない。おそらくロックの所論は、上巻のふたつのエッセイ(試論)につきてい…
去年、ライプニッツの「人間知性新論」を読むための準備として買ったもの(加藤卯一郎訳、岩波文庫)。上巻のおもな内容は経験論に基づく認識論で、こういう考え方は日本人にはわりあいすんなりと受け入れられるのではないかと思う。なによりも、ロックはな…
南方熊楠の「蛇に関する民俗と伝説」(「十二支考」所収)に、こんな話が出ている。「ムショーの艶話事彙(ヂクシヨネール・ド・ラムール)にも、処女が男子に逢見し事の有無は、大空を鳥が飛び、岩面を蛇が這た足跡を見定むるよりも難いと、或名医が嘆じた…
ベートーヴェンの交響曲は、まず3番に感嘆し、5番に驚嘆し、9番に落胆してこんにちにいたっている。で、今回7番を聴いてみた(アーノンクール指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団、1990年、ワーナークラシックス)。これを聴いて思うのは、ベートーヴェン…
聞きしにまさる怪作(ベンヤミン・クリステンセン監督、1922年)。こんな映画はいままで見たことがない。しいて似たような映画をあげるとすれば、同じくサイレントの「イントレランス」くらいか。ただし、「イントレランス」がセットの豪華さで見るもの…
古書にて購入(講談社現代新書)。新書ということで気軽に手にとったものの、この本はじつにわかりにくい。半分も理解できたかどうかおぼつかない。このわかりにくさの原因は、ひとえに著者の哲学的吃水が深すぎることにある。ほんの数行の記述のうちに、ゆ…
四冊目読了。これでいちおう全部読み終えたことになる。いままで、この小説は膨張するばかりでいっこうに進展しない、と書いてきたけれども、この四冊目にいたって、ついにその膨張がストップする。というよりも、ひとつの事件がきっかけになって、膨れに膨…
ストックホルム出身のフォン・オッターの歌うスウェーデン歌曲集(1995年録音、ドイツ・グラモフォン)。これだけである種の期待を抱かせるに十分だが、いっぽうではいかにもありがちな企画のつねとして、じつはたいしたことないんじゃないか、という気…