R.ネイサン「ジェニーの肖像」
前にあげた「少女愛文学」読破計画の一回目(井上一夫訳、ハヤカワ文庫NV)。
これはいわゆる(?)「不可能の愛」をテーマにした小説。私はこういう物語に弱い。成就した愛よりも成就しなかった愛のほうがずっと美しいと思うからだ。それになんというノスタルジックな状況設定だろうか。これはスピノザふうにいえば、永遠の相のもとにある「女性なるもの」を現在という時の一点において捉えようとした男の物語だといえる。
主人公の青年画家が現在愛してると思っているのは、じつはジェニーの過去である。「過去」は「現在」に追いつこうとして急速な成長をとげる。そしてついに「過去」が「現在」に追いついたとき、宿命は暴風雨となって愛し合う二人を永遠に引き離してしまう。あとには、青年が描いた一代の傑作「ジェニーの肖像」が「永遠」を象徴するものとして残るのみだ。
ジェニーとの永遠の別れの前、ある晴れた春の日に、主人公が友人のガスを伴って三人でピクニックに行くところは全篇の白眉だろう。「じつに楽しい一日だった。わたしはその日を決して忘れはしないだろう」。それはこの小説を読むものにとっても同じことだ。