2006-11-01から1ヶ月間の記事一覧

マルクス=エンゲルス「ドイツ・イデオロギー」

気がすすまないながらも読了(古在由重訳、岩波文庫)。この本はそもそもの成立事情にかなり問題があるらしく、ここで訳されているのは「フォイエルバッハ」の章全部と、「聖ブルーノ」および「聖マックス」の章の抄録だけ。そのことからもわかるように、こ…

ベートーヴェン「交響曲第2番、第4番」

恥ずかしながらベートーヴェンの偶数番シンフォニーを聴いたことがないので、先日、中古屋の棚をあさってみたが、偶数番どうしのカップリングはひとつもない。すでに知っている曲とのカップリングでは、お金を半分損したような気になってしまう(と、どこま…

モーツァルト「春へのあこがれ」

モーツァルト・イヤーも残り少なくなってきた。ところで、今年の企画もので「モーツァルト大全集」というのが出ていたことをいまごろ知った。文字どおりの大全集で、24時間フルに聴いたとして、ぜんぶ聴くのに一週間かかるという膨大なもの。モーツァルト…

マルセル・シュオッブ「ユートピアの対話」その3

アンブロワズ・バブーフは珍種の茸みたいな顔をしていて、ぴかぴか光る二つの点がつまり彼の目なのである。彼は長いこと歴史学をやっていたが、その方法は学問的ではないと思っていた。最初はテーヌの方法にならって、回想録や新聞や通信記録などから事実を…

マルセル・シュオッブ「ユートピアの対話」その2

「ねずみさん、とシプリアンはいった、ほら、ここに五フラン札があるだろう。そこから一枚抜きとってください」 「はい、どうぞ、とねずみ嬢はいった、で、やることはこれだけ?」 「これはそんなにたやすい仕事ではないんだよ、とシプリアンはいった、ぼく…

シャルロット・リゼスのこと

「ユートピアの対話」に出てくる「とがりねずみ」ことリリ・ジョンキーユのモデルではないか、といわれているのがシャルロット・リゼスという女優だ。サッシャ・ギトリーの愛人で、どうやら親父のリュシアン・ギトリーとも関係があったらしい。そのせいか、…

マルセル・シュオッブ「ユートピアの対話」その1

シプリアン・ダナルクは四十がらみの男である。が、そのことをいうと怒る。世にある他のものと同様、年齢も彼には関わりがないというわけだ。背が高くて、干からびたように日焼けしていて、目つきは険悪、鷲のような顔にしょっちゅう薄笑いを浮かべていたが…

翻訳について

翻訳という作業は、たまに気晴らし(?)にやってみるけれども、いつも10行ばかり訳したらいやになってやめてしまう。で、書いた紙はそのまま丸めて捨てる。そして、ああ、また時間を労力とを無駄にしたな、とため息をつく。しかし、まれに根気のつづくこ…

「唯一者とその所有」つづき

下巻読了。これは相当に過激で、どこまでも真摯で、完全にまっとうな本だ。スティルネルはこの本で「神」を葬り「人間」を殺す。「人間」が死んだあとにやってくるのは「唯一者」だ。そして、この唯一者はおのれを神にひとしい存在に祭り上げる。上の文で括…

「ケンブリッジ・シンガース・コレクション」

朝起きたらいきなり寒くなっていて驚いた。冬はきらいだ……冬はきらいだ、といえば、ドビュッシーの合唱曲「シャルル・ドルレアンの三つの歌」の第三曲を思い出す。冬よ、おまえはどこまでも鬱陶しい(yver, vous n'estes qu'un vilain)、と歌い出されるこの…

スティルネル「唯一者とその所有」

上巻読了(草間平作訳、岩波文庫)。いちおう青帯に分類されているけれども、白帯でもじゅうぶん通用するような本だ。つまり、実践哲学と社会科学との接点に位置しているのがこの本だということができる。それにしても、これはそうとうに風変りな本だ。その…