2007-01-01から1年間の記事一覧

J・ウェブスター「あしながおじさん」

少女愛文学の七冊目(松本恵子訳、新潮文庫)。なるほど、そういう仕掛けがしてあったのか、と種明かしをされてようやく気づく。「その瞬間、私の頭にその事実がひらめきました。でも、私ってなんて鈍感なんでしょう。もう少し才知があったら、無数の小さな…

フェラーラ・アンサンブル「三つの歌のバラード」

1995年、ということはこの前紹介した「美徳の華」の一年前に、同じくアルカナというレーベルから出たもの("Balades a iii chans" de Johan Robert & al.)。題名にある「三つの歌」とは、「三つの声部」というほどの意味だと思われる。ここに集められた…

バッハ「クリスマス・オラトリオ」

だいぶ前に、この曲はクリスマス限定にする、というようなことを書いた。じつはそういうわけにもいかず、ときどき取り出して聴いているが、まったくバッハという人は私が音楽に興味を失うたびに救いの手を差しのべてくれる。本道へ連れ戻してくれる、といっ…

エレナ・ポーター「少女パレアナ」

少女愛文学の六冊目(村岡花子訳、角川文庫)。これにはまいった。後半はずっと泣かされっぱなし。ひとことでいえば少女版「小公子」*1のようなお話なのだが、パレアナはさすがに(?)牧師の子だけあって、「喜びの遊び」を家のなかだけにとどめず、町じゅ…

ディディエ・ドゥコワン「眠れローランス」

少女愛文学の五冊目(長島良三訳、角川文庫)。これは1969年の作品。解説によれば1970年の「エル」誌の読者大賞に選ばれたとのことで、書評には「愛についての面白い本。重要な作品である」「もっとも美しい本の一つ」「このような感動と尊敬を同時…

オルコット「若草物語」(下)

この本(角川文庫)は訳も解説もいい。吉田勝江さんはオルコット関連の本をかなり訳していて、「不屈のルイザ」という伝記の訳まであるらしい。こういう傾倒の仕方は非常に好感がもてる。ほんとうにある作家を愛したら、ここまでいかないと嘘だという気がす…

矢野峰人の創作詩

あいかわらず矢野峰人で検索してくる人が少なくないので、この機会にもう少しだけ書いておこう。矢野峰人が編者として関わった本のひとつに河出書房の「日本現代詩大系」がある。これは明治の草創期から昭和20年ころまでに出た詩集の集大成で、有名詩人か…

オルコット「若草物語」(上)

少女愛文学の四冊目(吉田勝江訳、角川文庫)。これはすばらしい。同じく家庭小説といっても、前に読んだ「少女レベッカ」よりは格段にすぐれている。親が子にすすめたくなる小説の筆頭ではないだろうか。私も子供のころにこれを読んでいたら、と思う。そう…

「ディーリアス・フェスティバル」

「シナラ」が入っているというので聴いてみた(EMI EMINENCE, 1988)。これはEMIのいろんな録音から適当に選んだオムニバス盤で、指揮者だけでもマルコム・サージェント卿、ジョン・バルビロリ卿、フィリップ・レッジャー、メレディス・デヴィース、チャ…

E.ネズビット「砂の妖精」

少女愛文学の三冊目(石井桃子訳、角川文庫)。少女愛といっても、これはとくに少女を主人公にしているわけではない。ごくふつうの児童文学。作者はたぶんコボルトの伝説と「三つの願い」の寓話からこの物語を作ったんだと思う。全体の調子がなんともいえず…

訳詩についての雑感

矢野峰人+シナラで検索してくる人が多いのですが(あくまでも相対的に、ですよ)、私は矢野峰人のよい読者ではないし、英詩についても多くを知りません。ですからこちらへ来られてもたいした情報は提供できないのです。見てがっかりした人には申し訳ないが、…

オールタイムベスト10

http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20071203 via Sweetnessおもしろそうなので自分も便乗してみましょうと10本選んでみたが、上記のページのトラックバックを見ているとアップする気がうせた。というのも自分の選んだのとかぶっているのがひとつもないの…

ケート・D・ウィギン「少女レベッカ」

少女愛文学のふたつめ(大久保康雄訳、角川文庫)。これはダメだった。主人公のレベッカをいい子に仕立て上げすぎているし、それだけに彼女を取り巻く大人たちのえこひいきがまた尋常ではない。民主主義の風上にもおけない小説。小さい女の子が読んだらそれ…

R.ネイサン「ジェニーの肖像」

前にあげた「少女愛文学」読破計画の一回目(井上一夫訳、ハヤカワ文庫NV)。これはいわゆる(?)「不可能の愛」をテーマにした小説。私はこういう物語に弱い。成就した愛よりも成就しなかった愛のほうがずっと美しいと思うからだ。それになんというノス…

スピノザ「エチカ」下巻

この本が一般の哲学書と決定的に違うのは、「感情」にかなり重点をおいて書かれているところだろう。それは人間の幸不幸を考えた場合、理知的な面よりも感情に支配される面のほうが多いことを考えれば当然のことかもしれない。経験的にいっても、なにが幸で…

エーヴェルスの「トマト・ソース」について

このところ「エーヴェルス、トマト・ソース」で検索してくる人がちらほらいる。はて面妖な、と思っていたら、どうもdainさんのところでこの小説が「劇薬小説ベスト10」に加えられたようだ。ろくに書誌的な情報も書かず、ただ作者名と作品名を記しただけな…

「テンプルちゃんの小公女」

シャーリー・テンプルの名前は前から知っていたが、じっさいに見るのは今回がはじめてだ。1939年のアメリカ映画で、監督はウォルター・ラング。舞台は十九世紀末のイギリスだが、テイストは完全にアメリカのもので、家族みんなで楽しめるような娯楽映画…

失恋の痛手とダウソンの「シナラ」

まったく悪意のない第三者のことばがある人の心の古傷をうずかせ、血を流させることがある。ちょっと前にはてなで話題になった一連の騒動のきっかけがこれだったが、それに近いことが自分の身にも起こるとは思わなかった。私の場合は失恋の痛手なので他人に…

教養主義について

昼休みに会社の近くの古本屋へ行ってみた。珍しく店主が客と話をしている。それを立ち聞き(?)していると、店主が「私は稲垣足穂が嫌いでして……」といっていたので、へえ、そうなのかと思った。そのあとで、「でも足穂は売れるから仕入はしましたがね」と…

「河内カルメン」

三連休をみごとに仕事でつぶされたので、その散欝のつもりで借りたもの。1966年の日活映画で、監督は鈴木清順。見たのは昨日のことだが、見終ってから私には珍しく検索エンジンでこの映画の評判を調べてみた。おおむね好評。ときに絶賛。けなしているの…

スイーツ(笑)に隠されたひみつのなぞ

スイーツ(笑)なんてバカにされているようだが、私は女の子が使うスイーツはあまり気にならない。気になる、というか気に入らないのは男が調子にのって使うスイーツだ。まずこいつらをなんとかしろ、といいたい。きょうは旧知の、しかし新たに同僚になった…

まぎらわしい言葉

きのうは連休前のせいか、道がかなり込んでいた。自分の前をのろのろと走るVitzという車を見ているうち、あるフランスの小話のことを思い出した。新婚の花嫁に向かって、「あなたは夫を愛していますか」とだれかが訊いた。花嫁はそれにこたえて「Evidemment!…

リストマニア──少女愛文学

私が小説をせっせと読んでいたのはもう20年も前の話だ。そのころは巷に出回っていたいろんなリストを参考にしたものだが、そのうち手控えのあるものをここに写しておこう。今回のは「少女愛文学」*1。資料が古いのが難点だが、まるきり役にたたないわけで…

スピノザ「エチカ」(上巻)

畠中尚志訳の岩波文庫。題名に「幾何学的秩序に従って論証された」とあるとおり、はじめに定義と公理とが書き出してあって、本文は定理と呼ばれるいくつもの命題の連鎖とその証明からなっている。こういうもったいぶった書き方のせいで、この本はひどくとっ…

劇薬小説

http://q.hatena.ne.jp/1194736319「どくいり・きけん」な小説というので私もささやかながらオススメをあげておいたが、じっさい劇薬小説というのは多いようで少ないと思う。まず読む側の経年変化により、かつての劇薬が劇薬でなくなるケースがある。十代で…

「修羅雪姫」

検索していたらいつの間にか辿りついた作品(東宝映画、1974年、藤田敏八監督)。冒頭から血しぶきの雨あられだ。しかし、それがけっして醜悪ではなくて、むしろ美しい。美しいといえば、この映画の全体がなんともいえず美しい。よくできた日本画みたい…

ある英文学者のこと

最近「雑」ばかり書いているのは、もう本にしろ音楽にしろネタ切れ気味で、あまり書くことがなくなっているせいです。「両世界」とはもともと本と音楽の世界のことで、このあたりを中心に日記を書こうと思ってはじめたのですが、世界をそんなふうに狭く捉え…

コントラバス女性論(つづき)

楽器を複数台所有している人をよく見かける。それはとくにギター弾きに顕著だ。そんなに同じようなものをいっぱいもっていてどうするのか、と思うが、本人はそれぞれに違いがあって手放せないらしい。私はといえば、ほんとうに気に入ったものを一つだけ所有…

コントラバス女性論

いちおうこんな題名をつけてみたが、うまく書けるかどうかわからない。きょうはS大の学園祭に招かれて、ジャズのスタンダードを何曲か演奏した。このイベントのために、埃をかぶったベースを取り出して数日前からおさらいをやっていた。新しく来た隣人には…

「極北」の意味

ブロワの小説「絶望した男」にhyperboreenという言葉が出てくる。辞書をひくと、「極北の、北方の」と説明が出ている。この「極北」という言葉だが、かつていろんな辞書を引いてみたところ、いずれも「北の果て」というような説明しか出ていなくてふしぎに思…