E.ネズビット「砂の妖精」


少女愛文学の三冊目(石井桃子訳、角川文庫)。少女愛といっても、これはとくに少女を主人公にしているわけではない。ごくふつうの児童文学。作者はたぶんコボルトの伝説と「三つの願い」の寓話からこの物語を作ったんだと思う。全体の調子がなんともいえず甘くて、まるでピスタチオ入りのマシュマロのようだ。これは訳文のせいもあるだろう。

「その子どもたちは、いったい、どうして、じぶんたちが、いうこときかずになるのか、そのわけがわからないし、おとうさんや、おかあさんや、おばさんや、おじさんや、先生や、ばあやたちにだって、わかりゃしません」

ほとんど平仮名ばかりですごいでしょう。

しかし、石井桃子の翻訳にはわざとらしく稚拙を装ったような嫌ったらしさはない。さすがに数多くの児童文学を手がけているだけのことはある。これはプロの仕事だ。

この小説に出てくる子供はみんなかわいいが、いちばんキャラが立っているのは「ぼうや」ことヒラリーかもしれない。最後のほうに、子供のひとりの軽はずみな願いのせいで、この「ぼうや」が急に大人になる場面がある。

「まず、ぼうやの顔がかわりはじめました。……いちばんおそろしかったのは、顔だけがおとなになり、上くちびるにひげが──まだ、からだは、赤ちゃん用の上っぱりを着た二歳の子どもなのに──はえてきたことです。……子どもたちは、ぞっとしました」

そのまま映画になりそうな、非常に映像的な描写ではないだろうか。