ディディエ・ドゥコワン「眠れローランス」


少女愛文学の五冊目(長島良三訳、角川文庫)。

これは1969年の作品。解説によれば1970年の「エル」誌の読者大賞に選ばれたとのことで、書評には「愛についての面白い本。重要な作品である」「もっとも美しい本の一つ」「このような感動と尊敬を同時に味わわせてくれる作品はまれである」「注目すべき愛の物語」といった文句が並んでいるらしい。

しかし、ここで断言してもいいが、これらの書評はぜんぶ空疎な提灯記事にすぎない。たしかにこの小説、設定だけはやけにロマンチックだが、中身はといえば青年のひとりよがりな夢想が長々とつづくだけ。夢想のなかではだれでも「いいひと」を演じようとする。それは肥大したナルシシズムだ。この小説はそんなナルシシズムに埋没しきったような作品といってもいい。とうぜんリアリティはゼロだ。

夢想の少女にリアリティは必要なのか、と問う人があるかもしれない。そりゃもちろん必要ですとも、少なくともそれが小説や詩に描き出されたものならば。でないと、読むほうとしては感情移入のきっかけが失われる。そうすると今度は作品が完全な絵空事に思えてくる。すべての小説は絵空事だが、それはどこかでだれかがいったように、花も実もある絵空事でなければならない。

というわけで、つまらん作品というのが私の評価です。