2009-01-01から1年間の記事一覧

イレーヌ・イレル=エルランジェのこと

id:Hadalyさんの旧ブログで紹介されていて興味をもった女流作家。そのときは「独身者の機械」というトピックのもとに包摂されるようなかたちで紹介されていた。そのHadalyさんの買われた本(「万華鏡の旅」)を私も買って読んでみたのだが、どうも内容がスト…

ゾラ「獣人」

読んだ本の感想を書くのもずいぶんサボっていて、ツイッターに数行書くだけで満足するようになってしまった。そもそもブログというのは時事性とともに生きているようなところがあって、新刊書の感想(というか紹介)には意味があるとしても、100年前に原…

フランス散文詩集ベスト10

inmymemoryさんの記事(私家版・十大フランス文学、……)に便乗して。といっても屋上屋を架すのは本意ではないので、ここはぐっと規模を縮小して散文詩に話を限定する。フランスの散文詩はベルトランの「夜のガスパール」とともに始まった、というのが文学史…

「よろしかったでしょうか?」について

ひとさまのエントリに乗っかるのはあまり好きではないが、長らくダイアリーから離れていて調子が出ないので、復帰のための練習のつもりで。http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091013/1255409629で、私はといえばこういう問題についてはまったく定見がなくて…

世界を救うための一案

結婚する理由として「親のため」「老後のため」があがっているのを見かけた。「親のため」はまあ納得できるとして、「老後のため」というのはどうだろうか。結婚したからといって安定した老後を送れる保障は何もないような気がするのだが。結婚のことはとも…

岡田暁生「音楽の聴き方」

岡田氏の中公新書の三冊目だが、けっきょくのところ題名につられて買った人には多大の失望を与えるような本だ。それにしても、いまどき客観的な「音楽の聴き方」を書物に求める人がいるだろうか。私がこの本に期待したのも、客観的かつ一般的な「聴き方」で…

マックス・ミドルトン&ロバート・アーワイ「アナザー・スリーパー」

先日の皆既日食で、なんかそんな題の曲があったなあ、と思っていてふと思い出したのが上記のアルバム。確認すると皆既日食ではなくて「Partial Eclipse / Total Madness」だった。このアルバム、ネットを見るかぎりけっこう要望がありそうなのに、いっこうに…

皆既とは

意味がわからないので調べてみた。以下諸橋漢和をまるうつし。 皆既(皆既食)日蝕または月蝕のとき、日又は月の全面が全く光を失う現象。既は尽、完全に食し尽す意。皆既蝕。全蝕。出典:〔春秋、桓、三、日有食之既、註〕既、尽也、云々、皆既者、正相当而…

「と」を入れてほしい

英語の「A and B」に対応する日本語は、基本的に「AとBと」である。もちろんんこれは基本であって、現実には後のほうの「と」は省略されることが多い。「罪と罰」が「罪と罰と」ではちょっとくどいだろう。しかし場合によっては後の「と」を略すと意味の伝…

ナイアラトテプとは

SerpentiNagaさんのところにあがっている「ニャルラトホテプ」。これはいったい何だ?と思って調べてみると、次のようなページが見つかった。 Nyarlathotep - Wikisource, the free online library これには朗読までついている。イギリスふうの発音が美しく…

森鴎外「即興詩人」(下)

調べてみると、この作品、青空文庫にも入っている(→ハンス・クリスチアン・アンデルセン Hans Christian Andersen 森鴎外訳 即興詩人 IMPROVISATOREN)。けっして読みにくくはないが、しかしこの長さをパソコンで読み通すのはちときびしい。こういうのはあ…

わが懐メロ集〜YouTubeより

最初に自分なりの懐メロの定義を。まず、なんらかのかたちで音源を所持しているものはすべて省いた。そういったものは数年にわたって聴いていることが多いので、当時もいまも「現役」であって、とうてい懐メロにはなりえないから。曲目も演奏者もわからない…

森鴎外「即興詩人」(上)

とりあえず上巻読了(岩波文庫)。明治の翻訳文学の傑作とされているもので、いずれ一度は、と思っていたが、ようやくいまごろになって読んだ。鴎外は私にとっては無敵の人である。ボードレールがゴーチエについていったimpeccableという形容は、ゴーチエよ…

内村鑑三「余は如何にして基督信徒となりし乎」

著者が英語で書いたエッセイを鈴木俊郎が訳したもの(岩波文庫、改訳版)。題名はものものしいが、内容はきわめて平明な文で書かれている。これは著者なりの「或る魂の発展」であって、じっさいこれを読んだストリンドベリは「青い本」に感想を書きとめてい…

ロンドン中世アンサンブル「この悪魔的な歌」

中世音楽のCDはとうぶん買わないと前に書いたが、またしても買ってしまった(The Medieval Ensemble of London, "Ce Diabolic Chant", L'Oiseau-Lyre, (P)1983, (C)2007)。例によって14世紀末の歌曲集(バラッド、ロンドー、ヴィルレー)。作者もシュゾワ…

ボードレールの新訳にふれて

anatorさんのおすすめに従って「ボードレール、マイヤー、ペイター」を買う。ネット古書で500円だった。これには「悪の華」の新訳(といってもすでに20年以上も前のものだが)が入っている。おまけ(?)とはいえ、ボードレール愛好家としては読まない…

ベラミー「顧りみれば」

岩波文庫のユートピア文学の四冊目(山本政喜訳)。もうそろそろ食傷気味かな、とも思うが、この本はおもしろかった。たぶんロマンス*1としての出来では他の三冊を圧倒している。ここに述べられた理想郷としてのボストン(2000年のボストン)にしても、…

「モネルの書」と「建築の七灯」

「モネル」第一部をやっとかたづける(→マルセル・シュオッブ「モネルの書」 - 翻訳文書館)。いろいろと怪しいところはあるが、とりわけわからないのは次の一節。Souffle sur la lampe de vie que le coureur te tend. Car toute lampe ancienne est fumeus…

マイエル「フッテン最後の日々」

スイスの文豪マイエルの長篇連作詩集(浅井真男訳、岩波文庫、昭和16年)。読む前はフッテンが人名とは知らず、「ポンペイ最後の日」からの連想で地名か何かかと思っていた。ウルリヒ・フォン・フッテンは実在の人物で、プロテスタンティズムの闘士であり…

ウィリアム・モリス「ユートピアだより」

岩波文庫のユートピアものの三冊目(松村達雄訳)。この本は便宜上(?)白帯に分類されているけれども、内容はほとんど文学作品なので、むしろ赤帯のほうが適当なように思う。そのことはとくに本書の後半に顕著で、そこで語られるテムズ河上りにはモリスの…

フリッツ・ラング「M」

いわずと知れた名作。きのうの日記でちょっと触れたので探してみると、これまたニコニコ動画にアップされている。古典的な映画に関してはもうパソコンがあればDVDを借りる必要もなさそうだ。M 1/8 - ニコニコ動画これはだいぶ前にビデオで見たが、筋はほ…

セルジュ・ブールギニョン「シベールの日曜日」

1962年のフランス映画。かつて母の友人が見て大感動した、というので気になっていたもの。一年ほど前にレンタル店で見つけて、そのうち借りようと思っていたら、いつのまにか店がつぶれていた。とうぶん見るのは無理そうだったが、意外なことにニコニコ…

サミュエル・バトラ「エレホン」

ユートピア文学の二冊目(山本政喜訳、岩波文庫)。岩波文庫にはけっこうユートピアものが入っているので順次読んでいくつもり。モアの本が理想郷を描いているのに対し、バトラーの描くエレホンはアデュナタ(さかさまの世界)である。「さかさま」というよ…

イマヌエル・カント「美と崇高との感情性に関する観察」

上野直昭訳による岩波文庫(1948年初版)。これは題名の示すとおり「観察」であって、「考察」でもなければ「研究」でもない。もともとカントはきわめて無趣味な人で、自室には絵の一枚もなかったというから、そういう人の書いた美学が美学プロパーでは…

トマス・モア「ユートピア」

恥ずかしながらいまごろ読んだ(平井正穂訳、岩波文庫)。訳文はすばらしく明快で、さすがに英文学は裾野が広いだけあって翻訳の質も高い。モアのユートピアはどこまでも二重だ。著者は一方の目で理想を追いながら、もう一方の目ではしっかりと現実を見据え…

アンドレ・ジイド「地上の糧」

「モネルの書」と対比的に語られることが多いようなので、とりあえず読んでみた。訳は堀口大学による昭和28年のもの(角川文庫)。結論からいえば、両者はまったくの別物である。共通しているのは、反主知主義の書であること、アフォリズムによる教説が前…

レオン・グッチ「ザ・ロリータ/姦痛」

花粉症で目と鼻がやられて、はなはだ意気があがらないので、どうでもいいことを書いて更新する。この映画はもう20年以上も前の作品だが、当時はちょっとした評判になっていて、私のバイト先の先輩がこの映画について熱く語っていたことを思い出す(原題:T…

「夢見るフランス・ギャル〜アンソロジー'63/'68」

フランス・ギャルのレコード(CD)を買うのはこれが二枚目(フィリップス、2000年)。一枚目のは10年以上もずっと聴いているいわゆる「赤ベスト盤」で、これはジャケットといい内容といい文句なしのベスト盤。フランス・ギャルはもうこれだけでいい…

「モネルの書」訳出の試み

独訳をもとにして、「遠野物語」の文体で「モネルの書」を訳してみたい、と前に書いたと思うが、これが無謀な試みであることはやってみてすぐにわかった。私が柳田国男の真似をするなんて一万年早い。それに独訳にもやはり誤訳はあるので、これをもとにする…

ジャック・ブルース「スピリット」

1971年から78年までのBBC音源を集めた3枚組。ロック・セッションとジャズ・セッションとからなっている。ロック・セッションのほうは……うーん、まあそれなりにいいんだけれども、やはりこういうフォーマットではどうしてもクリームを想起させるの…