翻訳

ユイスマンス「ロココ・ジャポネ」

お前さん、ちょいとわたしの話をきいておくれでないか、黒い瞳の、三つ編みに結った、色の白い、やんちゃな小さい女狐さんや。ほんにまあ、耳のへんまでつりあがった、ふしぎな目をしてなさる。口はななかまどの実のようにまっかじゃ。ほっぺたはまるまると…

P.B.シェリー「メドゥーサ」

をりしも時はぬばたまの 彼方の夜空あふぎつつ 曇りし山の頂きに 横たはりたる女人あり はるか下界に遠つ国 かすむがごとく望まれき 其の恐ろしさ、其の美(は)しさ この世のものとも思はれず。 其の唇と目蓋には なにやららうたき風情さへ そこはかとなく…

マルセル・シュオッブ「ユートピアの対話」その3

アンブロワズ・バブーフは珍種の茸みたいな顔をしていて、ぴかぴか光る二つの点がつまり彼の目なのである。彼は長いこと歴史学をやっていたが、その方法は学問的ではないと思っていた。最初はテーヌの方法にならって、回想録や新聞や通信記録などから事実を…

マルセル・シュオッブ「ユートピアの対話」その2

「ねずみさん、とシプリアンはいった、ほら、ここに五フラン札があるだろう。そこから一枚抜きとってください」 「はい、どうぞ、とねずみ嬢はいった、で、やることはこれだけ?」 「これはそんなにたやすい仕事ではないんだよ、とシプリアンはいった、ぼく…

マルセル・シュオッブ「ユートピアの対話」その1

シプリアン・ダナルクは四十がらみの男である。が、そのことをいうと怒る。世にある他のものと同様、年齢も彼には関わりがないというわけだ。背が高くて、干からびたように日焼けしていて、目つきは険悪、鷲のような顔にしょっちゅう薄笑いを浮かべていたが…