オルコット「若草物語」(下)


この本(角川文庫)は訳も解説もいい。吉田勝江さんはオルコット関連の本をかなり訳していて、「不屈のルイザ」という伝記の訳まであるらしい。こういう傾倒の仕方は非常に好感がもてる。ほんとうにある作家を愛したら、ここまでいかないと嘘だという気がする。

若草物語」は原題をLittle Womenといって、本邦初紹介のときにはそのまま「小婦人」という題だったとのこと。しかし内容からいえば、「マーチ家の姉妹」というのがふさわしい。そこで思い出すのが「カラマーゾフ家の兄弟」だ。かたやバラ色、かたや暗黒という違いはあるけれども、ある家族の物語ということで共通するところは少なくない*1

ドストエフスキーの小説がギリシャ正教を背景にしているとすれば、オルコットの小説が背景にしているのは清教徒的な伝統ではないだろうか。もっと正確にいえばバニヤンの「天路歴程」。この本は物語のなかではじめからしまいまで重要な役割をはたす。前回の感想で、この物語の少女たちがアレゴリーと無関係ではないと書いたのもそういう事情による。

こういうアメリカ経由のプロテスタントの伝統は、明治の日本にも大きな影響をおよぼしたのではないかと思う。児童文学の翻訳紹介の歴史を調べてみれば、なにかそのあたりのことが見えてくるかもしれない。

まあそんなことはどうでもいいとして、男ばかりの環境で育った私には、こういう「女の王国」(feminieという古フランス語がある)は実際以上にまぶしくみえて仕方がない。こうなると、長いこと積読だった「細雪*2も読まないといけないかな、と思う。

*1:ドストエフスキーとオルコットとを並べて論じるのは少々無理があるが、中間項にディケンズをおくとどうなるか。これは今後の課題にしておきたい

*2:マキオカ・シスターズ、すなわち「蒔岡家の姉妹」