2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「ジャズ・イン・ブリテン '68-'69」

オーディオを新しくしてから、低音の鳴りと楽器の分離がかなりよくなったので、ドラムとベースを中心にジャズを聴きなおしている。といっても、この分野でも私の関心の幅は狭くて、興味の中心は60年代末から70年代初めにかけてのヨーロッパのジャズに限…

「牧神の午後」散文訳(その2)

「おれはここで、たくみの手によって馴らされたうつろな葦を折っていた。そのとき、はるか彼方、金色に照り映えた緑草が葡萄の蔓を泉に捧げているあたりに、なにやら白いものの姿が憩っているのがゆらゆらと見えた。この一群の白鳥、ではなくてナイヤードは…

「牧神の午後」はラール・ポエティックか?

鈴木信太郎の「牧神の午後」の訳詩(岩波文庫ほかに収録)は、ある意味で超訳といってもいい。今回、原詩を熟読してみて思うのは、意味の層が多重になっていて、その下層から上層までがパリンプセストのように透視できるような構造になっていることだ。そし…

マラルメ「牧神の午後」散文訳(その1)

あのニンフたちを永遠に自分のものにしたい。夢ともうつつともつかぬ空の下で、彼女らの軽やかな肌の色は、なんとあざやかに宙に舞っていることか。おれが愛したのは夢だったのか。夜ごと積み重なるおれの疑いは、いまや多くのかぼそい小枝になってしまった…

「牧神の午後」について

ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」のもとになったマラルメの「牧神の午後」は、鈴木信太郎によれば「フランス詩歌の最高水準を示す作品の一つであり、……人間の純粋な表現活動の一方向の窮極を指示しているとさえ思われる」ということだ。しかし、私は…

「リラの花咲くころ〜ショーソン歌曲集」

ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)とインゲル・ゼーデルグレン(ピアノ)とのコンビによる歌曲集(BMGジャパン)。ショーソンの歌曲では「愛と海の詩」が代表作とされているようだが、とりあえず小さい歌曲集から聴いてみることにした。歌曲の…

バッハ「ヨハネ受難曲」

なかなか手に入らなかったのをようやっと入手(ミュンヒンガー指揮、デッカ)。これはeloquenceという廉価盤だが、そのせいかどうか、歌詞カードがついていない。そういえば、この前買ったフランス・ハルモニア・ムンディの「アルス・スブティリオル」(セン…

レオン・パジェス「日本切支丹宗門史」つづき

やっと中巻を読み終えた。キリシタンの迫害はとうとう一般信者だけでなくて、外国人神父たちにも及んできた。この神父たちがまた揃いも揃って腹のすわった剛毅な人々だ。彼らはとろ火で火あぶりにされながらも、天に向かって祈り、信者をはげまし、不退転の…

丸谷才一「ロリータ」書評について

丸谷才一氏が「ロリータ」の新訳に書評を書いていることは人づてに聞いて知っていた。で、たまたまきのうの日記で「ロリータ」に言及したついでに、その書評をオンラインで読んでみた。新訳をもちあげるのはいいとして、旧訳をここまでけなす必要はあったの…

ヴィム・ヴェンダース「都会のアリス」

非常に後味のいい作品。しかし、この後味には一抹の悲哀感がともなう。この手の悲哀感は、時間がたつとともに純化され、いうにいわれぬノスタルジーをあとに残すものだ。見終えてしばらくたったいまも、いくつかのシーンを思い出すと、せつなさに胸が痛くな…

小林秀雄「モオツァルト」

モーツァルト・イヤーといっても特別なことは起りそうもないので(少なくとも自分にとっては)、名高い小林秀雄のエッセイを読んでみた。案に相違してけっこうおもしろい。小林秀雄にとってモーツァルトがどんな存在なのか、このエッセイを読んだだけではよ…

「アルス・スブティリオルからルネサンスの夜明けへ」

アルス・スブティリオルの3枚目が届く(ハルモニア・ムンディ盤)。これはどうも企画物の一環として作られたCDらしい。その企画というのは、「センチュリー」と題された20枚のCDの集録で、なかなか魅力的な題名のものが多いから、ここにぜんぶ書き出…

フーゴー・シュタイナー=プラーク「図録」

「ゴーレム」の挿絵がよかったので、彼の本を何冊か注文した。そのうちの一冊がこれだ。注文してから一週間ほどで到着。1976年から79年にかけてドイツ各地で行われた展覧会のときのもの。海外の図録を取り寄せるのは初めてだが、体裁は日本のものとほ…

ニュー・ロンドン・コンソート「アルス・スブティリオル」

アルス・スブティリオルの2枚目が届く(LINN)。前のプロジェクトPANのものよりもだいぶ聴きやすい。その理由の一つとして、こちらの演奏では歌が一人の歌手によって歌われていて、重唱曲がないということがあげられる。重唱ではどうしても対位法が強調…

レオン・パジェス「日本切支丹宗門史」

とりあえず上巻のみ読了(吉田小五郎訳、岩波文庫)。これはいろんな意味で読むのがつらい本だ。奇妙な表記の人名が頻出すること、註の活字が細かくて読みにくいこと、訳文が直訳体で文意がたどりにくいことなど、いくつも難点があるが、いちばんの難点は残…

「フェリーニ 大いなる嘘つき」

これもたまたまレンタル屋で見つけたもの。「インテルビスタ」の続篇のようなものかと思って借りたが、だいぶ趣がちがう。「インテルビスタ」は虚と実とがわかちがたく混ざり合っていて、その混交がまさしく映画ならではの表現になっていたが、こちらは虚は…

グレン・グールド「エクスタシス」

そのモグラのような風貌とあり方とが災いして、いままで聴く気にならなかったグールドだが、レンタル屋にDVDが置いてあったので借りてみた。プログラムのほとんどが、彼のひととなりを語る複数の証人の談話にあてられていて、彼の演奏そのものは断片的に…

「アメリ」

DVDプレイヤーを買ったので、久しぶりに映画でも見てみようと思ってレンタル屋へ行ったはいいが、見たいと思うようなのがほとんどない。思えば、ビデオデッキが壊れて以来、5年以上もこの店に足を踏み入れていない。まあ、プレイヤーを試すのが目的だか…