2007-12-01から1ヶ月間の記事一覧

J・ウェブスター「あしながおじさん」

少女愛文学の七冊目(松本恵子訳、新潮文庫)。なるほど、そういう仕掛けがしてあったのか、と種明かしをされてようやく気づく。「その瞬間、私の頭にその事実がひらめきました。でも、私ってなんて鈍感なんでしょう。もう少し才知があったら、無数の小さな…

フェラーラ・アンサンブル「三つの歌のバラード」

1995年、ということはこの前紹介した「美徳の華」の一年前に、同じくアルカナというレーベルから出たもの("Balades a iii chans" de Johan Robert & al.)。題名にある「三つの歌」とは、「三つの声部」というほどの意味だと思われる。ここに集められた…

バッハ「クリスマス・オラトリオ」

だいぶ前に、この曲はクリスマス限定にする、というようなことを書いた。じつはそういうわけにもいかず、ときどき取り出して聴いているが、まったくバッハという人は私が音楽に興味を失うたびに救いの手を差しのべてくれる。本道へ連れ戻してくれる、といっ…

エレナ・ポーター「少女パレアナ」

少女愛文学の六冊目(村岡花子訳、角川文庫)。これにはまいった。後半はずっと泣かされっぱなし。ひとことでいえば少女版「小公子」*1のようなお話なのだが、パレアナはさすがに(?)牧師の子だけあって、「喜びの遊び」を家のなかだけにとどめず、町じゅ…

ディディエ・ドゥコワン「眠れローランス」

少女愛文学の五冊目(長島良三訳、角川文庫)。これは1969年の作品。解説によれば1970年の「エル」誌の読者大賞に選ばれたとのことで、書評には「愛についての面白い本。重要な作品である」「もっとも美しい本の一つ」「このような感動と尊敬を同時…

オルコット「若草物語」(下)

この本(角川文庫)は訳も解説もいい。吉田勝江さんはオルコット関連の本をかなり訳していて、「不屈のルイザ」という伝記の訳まであるらしい。こういう傾倒の仕方は非常に好感がもてる。ほんとうにある作家を愛したら、ここまでいかないと嘘だという気がす…

矢野峰人の創作詩

あいかわらず矢野峰人で検索してくる人が少なくないので、この機会にもう少しだけ書いておこう。矢野峰人が編者として関わった本のひとつに河出書房の「日本現代詩大系」がある。これは明治の草創期から昭和20年ころまでに出た詩集の集大成で、有名詩人か…

オルコット「若草物語」(上)

少女愛文学の四冊目(吉田勝江訳、角川文庫)。これはすばらしい。同じく家庭小説といっても、前に読んだ「少女レベッカ」よりは格段にすぐれている。親が子にすすめたくなる小説の筆頭ではないだろうか。私も子供のころにこれを読んでいたら、と思う。そう…

「ディーリアス・フェスティバル」

「シナラ」が入っているというので聴いてみた(EMI EMINENCE, 1988)。これはEMIのいろんな録音から適当に選んだオムニバス盤で、指揮者だけでもマルコム・サージェント卿、ジョン・バルビロリ卿、フィリップ・レッジャー、メレディス・デヴィース、チャ…

E.ネズビット「砂の妖精」

少女愛文学の三冊目(石井桃子訳、角川文庫)。少女愛といっても、これはとくに少女を主人公にしているわけではない。ごくふつうの児童文学。作者はたぶんコボルトの伝説と「三つの願い」の寓話からこの物語を作ったんだと思う。全体の調子がなんともいえず…

訳詩についての雑感

矢野峰人+シナラで検索してくる人が多いのですが(あくまでも相対的に、ですよ)、私は矢野峰人のよい読者ではないし、英詩についても多くを知りません。ですからこちらへ来られてもたいした情報は提供できないのです。見てがっかりした人には申し訳ないが、…

オールタイムベスト10

http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20071203 via Sweetnessおもしろそうなので自分も便乗してみましょうと10本選んでみたが、上記のページのトラックバックを見ているとアップする気がうせた。というのも自分の選んだのとかぶっているのがひとつもないの…

ケート・D・ウィギン「少女レベッカ」

少女愛文学のふたつめ(大久保康雄訳、角川文庫)。これはダメだった。主人公のレベッカをいい子に仕立て上げすぎているし、それだけに彼女を取り巻く大人たちのえこひいきがまた尋常ではない。民主主義の風上にもおけない小説。小さい女の子が読んだらそれ…

R.ネイサン「ジェニーの肖像」

前にあげた「少女愛文学」読破計画の一回目(井上一夫訳、ハヤカワ文庫NV)。これはいわゆる(?)「不可能の愛」をテーマにした小説。私はこういう物語に弱い。成就した愛よりも成就しなかった愛のほうがずっと美しいと思うからだ。それになんというノス…

スピノザ「エチカ」下巻

この本が一般の哲学書と決定的に違うのは、「感情」にかなり重点をおいて書かれているところだろう。それは人間の幸不幸を考えた場合、理知的な面よりも感情に支配される面のほうが多いことを考えれば当然のことかもしれない。経験的にいっても、なにが幸で…

エーヴェルスの「トマト・ソース」について

このところ「エーヴェルス、トマト・ソース」で検索してくる人がちらほらいる。はて面妖な、と思っていたら、どうもdainさんのところでこの小説が「劇薬小説ベスト10」に加えられたようだ。ろくに書誌的な情報も書かず、ただ作者名と作品名を記しただけな…

「テンプルちゃんの小公女」

シャーリー・テンプルの名前は前から知っていたが、じっさいに見るのは今回がはじめてだ。1939年のアメリカ映画で、監督はウォルター・ラング。舞台は十九世紀末のイギリスだが、テイストは完全にアメリカのもので、家族みんなで楽しめるような娯楽映画…

失恋の痛手とダウソンの「シナラ」

まったく悪意のない第三者のことばがある人の心の古傷をうずかせ、血を流させることがある。ちょっと前にはてなで話題になった一連の騒動のきっかけがこれだったが、それに近いことが自分の身にも起こるとは思わなかった。私の場合は失恋の痛手なので他人に…