2008-01-01から1年間の記事一覧

ユクスキュル、クリサート「生物から見た世界」

ライプニッツの単子論とフッサールの現象学との中間にあるような本(日高敏隆、羽田節子訳、岩波文庫、2005年)。もちろんユクスキュルの本は哲学書ではないが、しかし認識の世界の根拠を外界にではなく内部にもとめ、それを各個体に独自の「環世界」と…

エリー・アメリンク「クリスマスソング集」

クリスマスもすぎてしまったが、今年はどうもクリスマス気分が高まらなかった。巷でもあまりクリスマスソングを耳にしなかったような気がする。いま日本でポピュラーなクリスマスソングは何曲くらいあるのだろうか。ざっと50曲はあるような気がするが、そ…

ランボーと身体性

「身体改造」で検索してくる人がけっこういるけれども、それだけこれに興味をもっている人が多いということかしらん。いけないなあ、不健康だと思うよ。まあ現代生活はあらゆる意味で刺激にみちていて、刺激というのはエスカレートする宿命にあるから、どん…

色情突起の話

現場作業でヘルメットをかぶろうとした同僚が、なんだか後頭部がひっかかってかぶりにくい、という。私はそれをきいて、もしかしたら色情突起がじゃましてるんじゃないか、といった。「色情突起て何ですか?」と同僚。そういわれてみれば、私もこの突起につ…

高山宏「メデューサの知」

「アリス狩り」の三冊目(1987年、青土社)。題名の意味するところはよくわからないが、メデューサというよりむしろペルセウスの盾がここでは問題になっているように思われる。ペルセウスの盾はナルシスの(水)鏡に容易に転じるだろう。この本の隠れた…

ボードレールとメトニミー

先日知人と話をしていたとき、どういう話の流れだったか忘れたが、「老若男女を問わず、世界でいちばん美しいのはイギリス人だ」と放言してしまった。すると知人はたちどころに反論して、いやそれはスペイン人だろう、という。ことにスペイン女の美しさとき…

ヴィーナスの陰裂

古代ギリシャ、ローマの彫刻を眺めていて、私がいつも不満に思うのは、男性像にはちゃんとある象徴物が女性像にはないことだ。女性には乳のふくらみというべつの象徴物があるから、下半身のものは不要とされてしまったのか、あるいはそれが造形的に美しくな…

トマス・ブラウン「医師の宗教そのほか」

ふだんは「英語くらいできるわい!」みたいな顔をしている私だが、じつはそうたいしてできるわけではないのはここをご覧になっている方にはとうにバレているだろう。最近、高山宏の導きで十七世紀のイギリスをちょっとかじってみようと思ってジョン・ダンの…

バッハ「ミサ曲ロ短調」

フランツさんのご紹介(エリー・アーメリングのクリスマス・ソング集: Taubenpost~歌曲雑感)で久々にアメリンクのCD(クリスマス・ソング集)を買う。それとはべつに、ミュンヒンガーの「ミサ曲ロ短調」が廉価盤で再発になっていたので、これも買ってみた…

高橋貞樹「被差別部落一千年史」

今年の正月に読み始めて、途中でつらくなって投げ出してしまった本(岩波文庫、1992年。初版は1924年刊)。どうしてつらくなったかといえば、これを読んでいると自分ではどうしようもないほど差別感情が刺激されてくるから。この本は差別撤廃の目的…

ゴードン・ベック・カルテット「エクスペリメンツ・ウィズ・ポップス」

たまに再燃するブリティッシュ・ジャズ熱に浮かされて買ったもの(原盤メジャーマイナー、1967年。デジタル・リマスター盤Art of Life Records、2000年)。題名にポップスとあるからといってナメてはいけない。これはポップスの皮をかぶった(?)超…

平田篤胤「仙境異聞・勝五郎再生記聞」

神道イデオローグとして名高い(?)平田篤胤による聞き書き(岩波文庫、2000年)。題名にある「仙境」とは「山人の世界」のことである。「仙」という字を分解すると「山人」となるように、古来山人は仙人と混同されてきた。平田篤胤はさらに進んで、こ…

「サラ・ヴォーン・イン・ザ・ランド・オブ・ハイファイ」

1955年録音の作品(ユニバーサル・ミュージック発売。原盤はエマーシー)。このうちの一曲、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」がたまたまカセットに録音してあって、それを繰り返し聴いていた私は、いつかこの曲が入ったフル・アルバムを聴いてみたいと思って…

小説の未来

kanyさんの記事で水村さんの本の内容はなんとなくわかった、ような気がする。で、その内容はといえば、少なくとも私にはトンデモとは思えない。自分でじっさいにその本を読んでみても、おそらくその八割くらいには同意できるのではないだろうか。八割に同意…

身体改造について

身体改造(body modification)というのがあることを最近知った。ポピュラーなところではピアッシングやタトゥーがある。こういうのはまあファッションとして許容範囲にある。ところが、異物を皮下に注入するインプラントになるとそろそろ病的になってくる。…

英語について感じることなど

「日本語が亡びるとき」という本が話題になっている。私は日本語がなくなるときは地球から日本人がいなくなるときだと思っているから、そんな先のことはどうでもよくて、とりあえず英語の話をすると、いまはこれだけブログが普及しているんだから、英語ので…

宇能鴻一郎頌

私は日本の現代小説が読めない。読めない理由ははっきりしている。それは文体的に堪えがたいものがあるからだ。両村上もダメ、高橋げんちゃんもダメ、島田なんとかもダメ。ダメといえば三島もダメ、高橋和巳もダメ、大江もダメ、要するに戦後作家のほとんど…

柳田国男「遠野物語・山の人生」

岩波文庫に何冊かある柳田本の一冊。フランス文学者の桑原武夫が解説を書いている。さて、ここに収められた「遠野物語」。有名な本だが、じっさいに読んだ人はどれだけいるだろうか。私も今回はじめて読んだくちだが、これはすばらしい作品だと思った。この…

高山宏「目の中の劇場」

「アリス狩り」の二冊目(1985年、青土社)。この本になると、もうアリスはほとんど姿をあらわさなくなる。かわって前面に出てくるのが「ピクチャレスク美学」なるもの。これは要するに世界を絵のように見、絵を世界のように見る視線のことらしい。これ…

極私的歌謡曲論あるいはyou tube始末記

you tubeを見る楽しみのひとつは、自分が子供のころに出た映像をさがすことにある。思いきり後ろ向きの快楽だが、ほっといてくれ、おっさんにはおっさんの楽しみがある。こういうのは若いモンには味わえまい、とやや自嘲ぎみに開き直っておく。さて、自分が…

音楽、その精神性と肉体性

このところ音楽についてあまり書かなくなった。書かなくなったというより書けなくなったといったほうがいい。CDを聴くのをやめたわけではないが、感想文作成欲を刺激するようなものになかなか出会わなくなっている。フェラーラ・アンサンブルとかマーラ・プ…

カーリダーサ「シャクンタラー姫」

「マーラヴィカー」が非常によかったので、ついでにこれを読み返してみた(辻直四郎訳、岩波文庫)。訳文は以前に思ったほど凝ったものではない。大地原氏の訳を読んだあとではすっきりしすぎていて物足りないくらいだ。この戯曲はカーリダーサのものではい…

カーリダーサ「公女マーラヴィカーとアグニミトラ王 他一篇」

大地原豊訳の岩波文庫(他一篇は「武勲(王)に契られしウルヴァシー」)。同文庫では辻直四郎訳の「シャクンタラー姫」が先行しているので、これはいわばその続篇にあたる。カーリダーサの戯曲のうち異論の余地なく真作と認められているのはこの三篇だけら…

ディドロ「絵画について」

サロン評で有名なディドロの比較的まとまった絵画論(佐々木健一訳、岩波文庫)。サロン評というのは一種の時評で、この本にもそういった要素は随所に目につく。当時(十八世紀中葉)のフランス画壇のことを知らないと、理解しにくいところも多い。逆にいえ…

イグナチオ・デ・ロヨラ「ある巡礼者の物語」

副題に「イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝」とあるとおり、イグナチオが晩年に書いた、というか口述筆記させた自伝(門脇佳吉訳、岩波文庫)。語り口はひどく朴訥然としたもので、たぶん訳者による註解なしにはおもしろく読まれないだろう。その意味で訳者の貢…

中島義道「働くことがイヤな人のための本」

パソコン関連の書類をひっくり返していたら転がり出てきたのがこの本(平成16年、新潮文庫)。以前人に借りたまま、こんなところにまぎれこんでいたのだ。ざっと読んでみたが、どうも要領を得ない本というしかない。著者の履歴や、彼の主宰する「無用塾」…

新井白石「西洋紀聞」

キリシタン文学の一変種。宝永5年(1708年)に最後の潜入者として日本にやってきた宣教師ジュアン・シドチ(ヨワン・シロウテ)の談話を新井白石がまとめたもの。当時のヨーロッパ事情の紹介として、画期的な意義をもつものとされているようだが、出版…

H.C.アルトマン「サセックスのフランケンシュタイン」

変形アリス譚とのことで興味をもって買ってみたが、長篇ではなくて短篇集だった(種村季弘訳、河出書房新社、1972年)。この本を読みながら思ったのは、なんだか星新一に似ているな、ということ。雰囲気的にはメタフィジック時代のキリコに近いかもしれ…

柳瀬尚紀訳「不思議の国のアリス」

ネットでアリスの訳本を検索していたら、この柳瀬訳に「漢字がいっぱい」との評があったので、覗いてみることにしました(ちくま文庫、1987年)。漢字で漢゛字搦め*1なんていかにも柳瀬氏らしいではないか、と思ったので。全体的によくできていると思い…

チェチーリア・バルトリ「イタリア古典歌曲集」

DHMのボックスセットを聴いていて思うのは、声楽ではやはりイタリア、スペインものがいいなあ、ということ。こういった曲ではまた歌手に逸材を揃えているんですよね。ところで、声楽学習者の教材として「イタリア古典歌曲集」というのがあります。私はこ…