2006-06-01から1ヶ月間の記事一覧

兼常清佐「音楽と生活」

この本の根幹をなすのは、1935年から1941年にかけて出された三冊の本から選ばれたエッセイで、あと、冒頭と末尾にほかの本から一篇づつ採録されている。選択にあたっているのは杉本秀太郎氏。私は杉本氏の仕事にはあまり共感をもっていないが、この…

ゴーリキー「母」

白水社の「詩的演劇」の最後の作品。これはゴーリキーの小説「母」をもとに、かなり自由な脚色をほどこした舞台用の台本らしい。題材になっているのは革命前夜のロシアの社会主義運動だが、どうしてこれが60年代も終りになってからふたたび取り上げられた…

オーランド・コンソート「教皇と対立教皇」

14世紀の教皇対立時代に、アヴィニョンとローマの宮廷のために書かれた歌曲をあつめたCD(原題:POPES AND ANTIPOPES、メトロノーム盤)。しばらく前からアルス・スブティリオルを中心に、この時代のCDを聴いているが、おかげで知らずしらずのうちにカ…

「100年前のパリI」

マール社から出ている「100年前シリーズ」の一冊。図版多数で1000円そこそこという値段につられて買ってみたが、本を開いた瞬間、しまった、これは失敗だ、と思った。というのも、写真図版の印刷がどうにも満足できる水準ではないのだ。古い写真特有…

聖テレジア「完徳の道」

なんとか適価にて購入(カルメル会訳、岩波文庫)。さて、いきなり話は脱線するようだが、ちょっと前の日記に、日本人選手の弱点はリズムにあるんじゃないか、と書いた。もしこれがあたっているならば、日本チームは(残念ながら)どうがんばってみても世界…

渋沢竜彦「太陽王と月の王」

久しぶりに新刊の文庫を買う(河出文庫)。手にとってみると、なんだか微妙に軽い。たぶん用紙のせいだろうが、本そのものが軽いのと同じく、内容も非常に軽い。ほとんどブログ的といってもいいほどの軽さだ。この軽さは、しかし意識的なものらしく、その証…

ヴィシネフスカヤのロシア歌曲集

ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。名前をみただけで一種の風格がただよう。私には縁遠いロシアのオペラ歌手らしいが、彼女がムソルグスキーの「死の歌と踊り」を歌っているというのでCDを買ってみた。EMIから出ているGREAT ARTISTS OF THE CENTURYというシ…

由良君美「風狂 虎の巻」

英文学者の書いた国文学の本(青土社)。扱われているのはまず「梁塵秘抄」、それから蕭白、若冲、芦雪、浮世絵などの江戸もの、夢野久作、大泉黒石、坂口安吾、平井呈一などの無頼派の文学、それに中村草田男の俳句などだ。あとは埋め草的な雑文が少々、と…

逸脱 英文学者の場合

こんな本があったら読んでみたいと思うものに、「英文学者列伝」がある。どうも英文学者というのはほかの外国文学研究者にくらべて奇人変人が多いような気がするからだ。フランス文学やドイツ文学の主流が、よかれあしかれ旧帝大(もっとはっきりいえば東大…

W.ゴンブローヴィッチ「結婚」

「詩的演劇」(白水社)所収の四つめ。ここまでくると、完全に現代演劇という感じがする。この手のものはすでに日本も含めて世界じゅうの劇団がいまなおやっているものではないか。現代劇につきまとうある種の「気恥ずかしさ」(見るものにとっても演じる側…

T.S.エリオット「寺院の殺人」

これも「詩的演劇」(白水社)に入っているもの。「夢の劇」や「すばらしい靴屋の女房」はどこが詩的なのかわからないような作品だが、この「寺院の殺人」はたしかに詩的演劇と呼ばれるに値する。少なくとも日本語で読むかぎりはそうだ。登場人物は少なく、…

マヌエル・デ・ファリャとパコ・デ・ルシア

マヌエル・デ・ファリャの作品のうち、ロルカの「すばらしい靴屋の女房」の世界にいちばん近いのが「七つのスペイン民謡」だ。これは形式的にはリートやメロディと同じくピアノ伴奏による独唱だが、そのピアノ・パートがちょっと変っていて、あきらかにギタ…

ガルシーア・ロルカ「すばらしい靴屋の女房」

これも白水社の「現代世界演劇3・詩的演劇」に入っているもの(会田由訳)。ロルカはいっとき日本でも人気があったようだが、いまはどうなのだろうか。私はといえば、その詩のひとつすら読んだことがない。この本に「すばらしい靴屋の女房」が入っていなけ…

ストリンドベリ「夢の劇」

白水社の「現代世界演劇3・詩的演劇」所収(毛利三弥訳)。プロローグにいきなりインドラ(ただし声だけ)とインドラの娘が出てくる。この導入部はすばらしい。インドラの娘は地球におりたって、そこで見知った人間の苦悩を伝えることをインドラに約束する…

百夜百冊

某HPで松岡正剛氏の「千夜千冊」が話題になっていたので、ちょっとのぞいてみた。目次をみると、読んだことのある本やもっている本が散見する。拾い出してみると、次のようになった。カミュ「異邦人」 ヴァレリー「テスト氏」 バルトルシャイティス「幻想…

ムソルグスキー「死の歌と踊り」

前にちょっとふれたムソルグスキーの歌曲集(オランダ、ドレームス盤)の終りのほうに、「死の歌と踊り」という曲が入っている。「子供部屋」と同じくとっつきにくい曲で、ほとほと持て余していたが、それでも何度も聴くうちにだんだん勝手がわかってきた。…

J.ゴンダ「インド思想史」

ゴンダ文法の著者によるインド思想の入門書(鎧淳訳、中公文庫)。扱われているのは古代のヴェーダから古典ヨーガまでで、つけたりとして「革新的思想と唯物論」が添えられている。つまり、思想史といってもほとんど宗教史であって、時代も西暦5世紀くらい…

メーリケ「旅の日のモーツァルト」

モーツァルトを聴かないまま、モーツァルト・イヤーも半分近くすぎてしまった。どうもこの先、事態が好転しそうもないけれども、シュタイナー=プラークが挿絵を描いたというメーリケの本を手に入れたので、これを読んでみた。といっても、当該挿絵本ではな…