「舞踏への勧誘〜クナッパーツブッシュ名演集」

sbiaco2006-12-29



この前ちょっと言及したが、あらためていちおう書いておく(DECCA, ユニバーサル・ミュージック)。これはクナッパーツブッシュウィーンフィルを振ったもので、前に聴いたカラヤンベルリンフィルとは好対照をなしている。後者が関東ふうで洗練されているとしたら、前者はあくまで関西ふうで泥臭い。ウィンナ・ワルツを関西ふうのコテコテのノリで演奏したらどうなるか、というのがこのCDの聴きどころだ。

で、聴いてみた結果だが、どうもあまりしっくりこない。いいのは冒頭のブラームスの二つの序曲だけ。あとの6曲のワルツは、演奏うんぬんという前に曲がつまらない。ワルツといえば、聴いているだけで幸せな気分になるような、内部から澎湃とわきあがる感興みたいなものが命だと思うのだが、そういうものがここではまったく感じられない。やはりクナッパーツブッシュとウィンナ・ワルツという組み合わせには無理があったということか。

さて、前にフルトヴェングラー以下の大指揮者の名盤はもういらない、と放言したことがあるけれども、このクナッパーツブッシュだけは別で、ワーグナーはできれば彼の演奏で聴いてみたいと思っている。彼のワーグナーは、抜粋盤を別にすれば、「パルジファル」のバイロイトでの海賊盤を聴いただけだが、まるでワーグナーの毒の効果を強化する阿片のような演奏で、たちまち虜になってしまった。この盤では、クンドリ役にレジーヌ・クレスパンという美声のソプラノを配したのもポイントが高い。

パルジファル」といえば、ニーチェはこの作品が嫌いだったらしい。彼にとっては、魔術師から山師(カリオストロ!)に転落したワーグナーを象徴するような作品だったのだろう。それはまた彼にとって不倶戴天の敵たる「ドイツ的なもの」と完全に一体化したワーグナー作品だった。しかし、私にとっては、こういうワーグナーを通じてしかドイツ音楽へいたる道はない。そして、クナッパーツブッシュはそんな自分にとって格好のmystagogus(魔界の導師)なのである。