オッター、フォシュベリ「夜の翼/スウェーデン歌曲集」

sbiaco2006-09-19



ストックホルム出身のフォン・オッターの歌うスウェーデン歌曲集(1995年録音、ドイツ・グラモフォン)。これだけである種の期待を抱かせるに十分だが、いっぽうではいかにもありがちな企画のつねとして、じつはたいしたことないんじゃないか、という気もしていた。しかし、じっさいに聴いてみて、そんなささやかな期待や漠とした不安などは完全に吹き飛んでしまった。

前に「よくできた選集は完璧な全集を超える場合がある」というようなことを書いたが、このCDはそのことをよく証明しているのではないか。ほとんど日本では無名に近い作曲家の、おそらくは最上の作品ばかりが選りすぐってあるので、アンソロジーの楽しさを存分に味わうことができる。これを聴いて北欧の風土に思いをはせるもよし、ロマン派や印象派の残り香をかぎとって陶然とするもよし。

このCDには31曲もの作品が入っている。とうぜん一曲あたりの時間は短くて、長いものでも3分台、短いのになると1分そこそこだ。歌曲は一般に短いものだが、それにしてもこれほど短いのも珍しい。昔のポップ・ソングでも3分くらいはあるだろう。しかし、これだけ短い形式のなかでいいたいことをいいきるというのも、ある意味でヴィルテュオジテといえるのではないか。じっさい、無駄に長い歌曲くらいうんざりするものもない。歌曲においても、one sittingの法則(?)はりっぱに通用するのではないかと思うのだが、どうか。

フォン・オッターの歌唱もすばらしい。以前、グリーグシベリウスを聴いたときには、ちょっと力みすぎでは?と思ったけれども、このCDではうまく力が抜けていて、むしろ淡々とした歌い口になっている。それがまた北欧歌曲独特の透明感をいっそうあざやかに引きだしている。ピアノのフォシュベリの安定したサポートも光る。

とにかく、全体をひとつのムードで統一したアンソロジーとしては出色の出来ばえだ。評価でいえば四つ星半くらいをあげたい。内訳は、

ヴィルヘルム・ペッタション=ベリエル──9曲
シグルド・フォン・コック──5曲
ヴィルヘルム・ステンハンマル──6曲
チューレ・ラングストレム──6曲
フーゴ・アルフヴェン──2曲
エミール・ショグレン──3曲

となっている。