ゴシック・ヴォイセズ「知られざる恋人」
Gothic Voices
"The Unknown Lover, Songs by Solage and Machaut"
(Avie Records, 2006)
ソラージュの歌曲を12曲、マショーの歌曲を7曲、交互に並べた作品集。歌っているのはゴシック・ヴォイセズというヴォーカル・グループで、全曲アカペラだ。このCDはとくにソラージュの作品をはじめて全曲録音したところに特色がある。ソラージュは自分を中世音楽の世界にいざなった張本人だから、彼の全作品が聴けるとなれば飛びつかざるをえない。というわけで、さっそく購入して聴いてみた。
皆川達夫氏がソラージュをマショーの亜流と決めつけたにもかかわらず、ここに聴かれる両者の音楽は歴然と異なっている。演奏のフォーマットが同じだから、よけいに両者の違いがきわだってきこえるのかもしれない。これはもう亜流とかそういったものではなく、まったくの別物と考えるべきだろう。まさに中世音楽の夏と秋という気がする。あるいは「ますらをぶり」と「たをやめぶり」とも。
自分としては、もちろん精緻をきわめたソラージュ作品につよく惹かれるけれども、だからといってマショーのおおらかな歌がつまらないとは思わない。マショーの強みは、単純なメロディーを印象的に響かせる手腕にある。一度聴いたらすぐに歌えそうな親しみを感じさせるのがマショーのいいところだ。
いっぽうのソラージュだが、こうして聴いてみると、やはりいい曲を書くなあ、と思う。従来作者不詳とされてきた、そして私がとくに好きな「トラキアのアオンの山は」がソラージュの作に擬せられているのもうれしい。リトル・コンソートのCDでも掉尾をかざっていた「ああ、わたしの心が」が、ここでも最後におかれて錦上花を添えている。この曲の美しさは筆舌につくしがたい。
思えば今年はほぼ中世音楽に明け暮れた1年だった。その1年を締めくくる意味でも、こういうCDに出会えたのはよかったと思う。ちなみにこのCD、なぜかアマゾンではむやみに高い値段がついている。買うならほかのところをあたるのが得策だ。自分はHMVで買った(だいぶ待たされたけれども)。