クライスト「ハイルブロンの少女ケートヒェン」


中世を舞台にした恋愛喜劇(手塚富雄訳、岩波文庫)。喜劇といっても、笑うところより泣くところのほうが多い。じっさい、第三幕の後半などは涙で目がかすんで読むのに苦労する。

ケートヒェンはジャンヌ・ダルクウンディーネとを足して二で割ったような少女だ。訳者の「はしがき」によれば、「ケートヒェンはグレートヒェンなどと共にドイツ人の心の中に生きているドイツ娘の典型である」とのこと。なるほどこういうのがドイツ娘の典型なのか、と思う。そして、こういう娘の魅力はドイツ人のみならず、われわれ日本人にもじゅうぶん理解し共感できるものだ。

とにかく、作者はこの戯曲でケートヒェンという可憐で勇敢で頭がよくて健気で、しかも徹頭徹尾「受け身」の少女をこれでもかと描き出す。この受け身であるということがひとつの重要なポイントだ。そして、この少女の仇役としてクニグンデという毒婦を配する。このクニグンデがまたものすごい。とくにその身体的特徴(アンピュテ=欠損)にいたっては、ほとんど見世物小屋まがいの趣味のわるさだ。

クライストはフェミニストであるがゆえに、現実の女性にはずいぶん要求がきびしかったらしい。脳内の理想との食い違いにがまんがならなかったのだろう。まあ、そのあたりがいかにもロマン派らしい。彼の戯曲でやはり女性を主人公にしたものに、「ペンテジレーア」がある。これはたしか復刊リクエストのときに買ったおぼえがあるので、また探し出しておきたい。