ヴィーナスの陰裂

sbiaco2008-12-13



古代ギリシャ、ローマの彫刻を眺めていて、私がいつも不満に思うのは、男性像にはちゃんとある象徴物が女性像にはないことだ。女性には乳のふくらみというべつの象徴物があるから、下半身のものは不要とされてしまったのか、あるいはそれが造形的に美しくないと彫刻家に判断されたのか、いずれにせよほとんどの彫刻ではこれが省略されてしまっている。

しかしよく考えてみると、あのすっぺりした丘に一本縦すじを刻むだけで、それは芸術から逸脱してべつなものになってしまうような気がする。たったそれだけのことで、彫像が天上的なものから地上的なものに引きずりおろされるようなところがある。そのむかし、芸術かワイセツか、というような論議があったが、この微妙な(?)問題も要するに一本の縦すじがあるかないかにきわまるのではないか。

さて、上に「ほとんどの彫刻では」と制限をつけたのは、そうでないものが少数ながらあるからだ。どこの美術館でだったか忘れたけれども*1、いわゆる「恥じらいのヴィーナス」*2像のひとつを見つけたとき、私は人目もはばからず地面にしゃがんでこれを下からのぞいてみた。そして、手に覆い隠された下腹部に、たしかに深々と溝が刻みこまれているのを確認して、ようやく渇をいやされたような気になった。

それから十年もたってしまったいまでは、そのとき見たものがはたして現実だったのか、それともたんなる幻にすぎなかったのか、自分でもよくわからなくなっている。が、もし現実だったとすれば、「恥じらいのヴィーナス」像の手はいたずらに下腹部を覆っていたのではなかったことになる。……

ディドロの絵画論を再読しながら、そんなことをふと思い出した。


(追記、2009/06/13)
あいかわらずこの記事だけ、検索でやってくる人があとをたたない。みなさんほんとにお好きですね、あのスジが。

そういう人々のために、私の考える最高のスジの見本を出しておく(さんざんガイシュツかもしれないが)。18歳未満のお子様は見ちゃだめですよ。
http://rapidshare.com/files/68149480/171_Sonya_and_Margarita.rar
たぶんそのうち消されるから、スジマニアはお早めに。

*1:パリのオルセー美術館だったような……違っていたらすみません

*2:ボッティチェルリの「ヴィーナスの誕生」のポーズの原型