中島義道「働くことがイヤな人のための本」


パソコン関連の書類をひっくり返していたら転がり出てきたのがこの本(平成16年、新潮文庫)。以前人に借りたまま、こんなところにまぎれこんでいたのだ。

ざっと読んでみたが、どうも要領を得ない本というしかない。著者の履歴や、彼の主宰する「無用塾」についての記述が多いのもうっとうしい。

内容を自分なりにまとめてみると──

働くことがイヤな人は、それでも働かなければならない。だって働かなければ生きていくことができないからね。その仕事に意義を見出せても見出せなくても、とにかく金はかせがねばならぬ。

もちろん、仕事を通じて「自己実現」ができる人は幸いだ。しかし、どんなに「りっぱな」仕事でも、ひとりの人間が「生きている」という大仕事に比べれば、取るに足りないちっぽけなものでしかないのではないか。

ひとりの人間が「よく生きる」こと、これ以上にりっぱな仕事があるだろうか。

いわゆる「仕事」はその「よく生きる」ための方便にすぎない。

勝ち組も負け組も、「死」という絶対的勝者を前にしては、みな等しなみに敗者である。その事実を直視せよ。

「死」を直視しつつ、この世の不条理(理不尽)を徹底的に味わい、しかもそれをアプリオリなものと見なさず、どこまでも「なぜ?」と問うてゆくこと。それこそが「よく生きる」ことにほかならぬ。

そう考えれば、いわゆる「自己実現」できない仕事についているのもわるくないじゃないか。むしろそのほうが、「よく生きる」のには好都合ではないか。なにしろ、不本意な仕事についていることくらい理不尽なことはないのだから。……

ざっとこのようなことを著者は説いている*1。これだけのことを200ページにもわたってふくらませる著者の筆力はたいしたものだが、さて再読三読に値するかといえば微妙だ。それがこの本の、ひいては著者の限界かもしれない。

*1:著者がこれを見たら、おれはそんなことを書いたおぼえはないぞ、というかもしれないが