ロンドン中世アンサンブル「この悪魔的な歌」
中世音楽のCDはとうぶん買わないと前に書いたが、またしても買ってしまった(The Medieval Ensemble of London, "Ce Diabolic Chant", L'Oiseau-Lyre, (P)1983, (C)2007)。例によって14世紀末の歌曲集(バラッド、ロンドー、ヴィルレー)。作者もシュゾワ、サンルシュ、グイド、オリヴィエ、ガリオなど、いつものめんめん。
2007年に出たというから新譜かと思ったら、じつは1983年の旧譜の再発だった。しかしこのいまでは消滅してしまったアンサンブルの演奏は、こんにちでもじゅうぶんに聴くにたえる。なによりも彼らは、それまで「歌と伴奏」の形態が主流だった中世音楽の演奏にアカペラを導入して新機軸を打ち出し、新しい主流を生み出すのに貢献したのだから。
しかしそれにしても、この時期(14世紀末)にここまで複雑な対位法を完成させていたヨーロッパ音楽というのはいったい何なのか、と思ってしまう。そしてそれを後世に正確に*1伝える記譜法まで編み出していたとなると*2、これはもう悪魔のような狡知の所産としかいいようがなく、ヨーロッパ人というのが史上最強最悪の人種であったことを感じさせる。
最後に、「この悪魔的な歌」という標題は、作者不詳のロンドー"Se j'ay perdu toute ma part"の歌詞からとられたものだが、この"ce diabolic chant"というのは"ce diabolic chaut"の写し誤りだという説が有力らしい。「わがすべてを失いしは、わがあやまちによるものならず、かの悪魔のごとき暑熱のゆえなり」というのが正解のようだ。