ジャック・ブルース「スピリット」

sbiaco2009-03-06



1971年から78年までのBBC音源を集めた3枚組。ロック・セッションとジャズ・セッションとからなっている。

ロック・セッションのほうは……うーん、まあそれなりにいいんだけれども、やはりこういうフォーマットではどうしてもクリームを想起させるので、そのぶん評価が辛くなってしまう。つまりこれらの演奏を聴いていると、逆にクリームがどれほどすばらしいバンドだったかがはっきりわかってしまうのだ。

クリームにあってそれ以後のジャック・ブルース・バンドにないもの。それは端的にサイケデリアという言葉であらわすことができる。クリームの3枚のアルバムにはこのサイケデリアの雰囲気がもうもうと煙のようにたちこめている。そしてそれこそがクリームを特別なバンドたらしめていた要素ではないか、と思うわけだ。

ひそかに思うに、クリーム以降のジャック・ブルースを追っかけている熱心なファンも、彼の「その後」の音楽のなかにクリームの幻影を求めているのではないだろうか。

さて次はジャズ・セッション。以前にも書いたように、私は彼の「シングス・ウィ・ライク」から決定的な影響を受けた。そしてこのBBCのジャズ・セッションはジョン・サーマンとジョン・ハイズマンとのトリオで行われている。つまり「シングス・ウィ・ライク」セッションからディック・ヘクストール=スミスが抜けて、かわりにジョン・サーマンが加わったもの、とみることができるわけだ。しかもジョン・サーマンにはべつにバール・フィリップス、ステュ・マーチンと組んで作った「ザ・トリオ」がある。これまた私のオール・タイム・ベストに入りそうな名盤。

というような次第で、かなりの期待をもって聴いてみた。で、その結果はといえば、「ジョン・ハイズマンは英国最高のドラマーのひとりである」という確信が得られたことがひとつ。まったくここでのハイズマンのすばらしさは筆舌につくしがたい。トニー・オクスレーが「白いトニー・ウィリアムス」だとすれば、ハイズマンは「白いビリー・コブハム」である。彼のドラムが聴けただけでもこのCDを買ってよかったと思う。

もうひとつの確信は、「ジョン・サーマンは変態ではあるが一種の天才である」ということ。このCDではほかにも何人かのサックス・プレイヤーの演奏を聴くことができるが、そういった人々の演奏とサーマンのそれとではまるきり次元がちがう。サーマンが一音発するだけでそこにはもう一種の磁場みたいなものができてしまい、聴き手は金縛りにあったように身をこわばらせ、固唾をのんで音に耳を傾けることになる。こういうマジックを演出できるのはやはり天才にだけ許された特権ではないだろうか。

このCDに収められた音源はすでにネット上に流されているのもあるみたいだが、長尺もの3枚組で2500円はけっして高くはない。ジャック・ブルースのファンならぜひとも買っておきたいところ。