「と」を入れてほしい


英語の「A and B」に対応する日本語は、基本的に「AとBと」である。もちろんんこれは基本であって、現実には後のほうの「と」は省略されることが多い。「罪と罰」が「罪と罰と」ではちょっとくどいだろう。

しかし場合によっては後の「と」を略すと意味の伝達のうえで支障をきたすことがある。

例をあげれば、

「究極的には、経験がもつ地平を露呈することのみが、世界の「現実性」と「超越性」とを解明し、さらに世界が意味と存在現実性を構成する超越論的主観性から不可分であることを証明することになる」(フッサールデカルト省察」より)

この文の場合、「世界の「現実性」と「超越性」と」の後のほうの「と」は省略しても文意に影響をあたえない。ところが「世界が意味と存在現実性を構成する超越論的主観性から不可分」のほうは後の「と」が省略されているために文意がたどりにくくなっている。「と」で結ばれているのが

1.「意味」と「存在現実性を構成する超越論的主観」なのか
2.「意味」と「存在現実性」なのか

がわかりにくいからだ。よく読めば後者が正解っぽいけれども、はじめから「意味と存在現実性を構成する」というふうに「と」を入れておけば誤解の余地は少なくなる。もし前者の意味を伝えたければ、「意味と存在現実性を構成する超越論的主観性から不可分」としておけばいい。