2007-01-01から1年間の記事一覧

名作の皮をかぶった駄作十選

昼間車を運転しながら、ふと思い浮かんだのは、名作のふりをしながらそのじつとんでもない駄作がある、ということだった。読んだあとで「金と時間を返せ」と叫びたくなるような作品のことだ。はてなの名作十選もそろそろ落ちついてきたようだし、ここを定期…

西田幾多郎「善の研究」

西田によるフィヒテの訳書の「序」の文体が気に入ったので買ってみた(岩波文庫)。その「序」というのは、こんな感じの文。「……併し大思想家の書を我国語に訳することは、単に他国語を知らざるものをしてその思想を理解せしむるのみでなく、我国語をしてそ…

ド・クインシー「深き淵よりの嘆息」

野島秀勝訳の岩波文庫(2007年)。「阿片常用者の告白」の20年後に書かれたいわば続篇のようなものだが、内容としてはあまり関係がない。この本はどうも第二部の途中で作者が筆を折ったらしく、尻切れとんぼに終っている。といっても、もともとが断章…

格闘技ほか

きのう久しぶりにボクシングを見た。まあNが勝つのは当然として、そんならさっさと早いラウンドでKOしてほしかったな。世界チャンピオンがあの程度ではちょっと情けない。圧倒的な力の差を見せつけてほしかった。しかし世界チャンピオン相手にともかくも…

エヴァ・メイ「真夜中に〜イタリア・サロン歌曲集」

三人のオペラ作曲家(ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティ)のサロン歌曲をあつめたCD(BMGビクター、1995年)。ピアノ伴奏はファビオ・ビディーニ。これを聴いていると、自分にとって歌曲との蜜月は終った、と感じざるをえない。この分野におい…

英文解釈について

ドイツ語でさんざん苦労しているので、そのぶん英語の力が相対的にアップしたのではないか、と思って、かつて放り出したコールリッジの「文学評伝」(Biographia Literaria)をもう一度手にとってみた。しかし、期待したほどの変化はないようだ。あいかわら…

フィヒテ「全知識学の基礎」(下)

この本はあとになればなるほどむつかしくなる。第一部「全知識学の根本諸命題」がわりあい明快だったので安心していたが、とんだ誤算だった。おかげで読むのにひどく暇がかかってしまった。しかし、これは読んでいいことをしたと思う。フィヒテは哲学史的に…

関口存男「独作文教程」

大枚はたいて購入(三修社、POD版)*1。まだざっと一瞥しただけだけれども、なにしろ古い本なので、レイアウトその他、およそスマートとはいいがたい。ただその分、なんともいえないごつごつした手作り感があって、読めば読むほど味わいがましそうな、と…

独作文教程ほか

ラジオのドイツ語はきのうが最終回だった。あっという間に半年がたったわけだが、どうもドイツ語の聴き取りに関しては上達したという実感がまるでない。やはり聞くためにはある程度読めるようになっていることが必要だ。自然な言語学習ではまず聞く、それか…

翻訳者のあるべき姿とは

だいぶ前に「池内紀氏が嫌い」と日記に書いたことがあるけれども、頃日こちらの記事を読んでその理由が自分なりに明確になった。なるほど彼はそういう態度で翻訳にあたっていたのか、と目からうろこが落ちた。池内氏の翻訳態度を自分なりに総括すると、原文…

ヤコブ・ベーメ「黎明(アウロラ)」

ドイツ神秘主義の最後の頂点といわれるヤコブ(ヤーコプ)・ベーメの処女作(征矢野晃雄訳、牧神社、1976年)。これは大正10年に大村書店という本屋から出たものの復刻版、というかファクシミリ版で、誤記、誤植も含めてそっくり復元してある。こうい…

無断転載のこと

無断リンクのことはよくわからないが、私がときどきふしぎに思うのが「無断転載禁止」というやつ。ウェブ上にいったん公開したものを他人がどう使おうがかまわない気がするのだが、作者はよほどそのコンテンツに愛着があるのだろうか。それとも自分が心血を…

「カラマーゾフの兄弟」の次に読むべき本を

http://q.hatena.ne.jp/1189457598なかなか興味深い回答が並んでいるが、さて自分ならなにをすすめるか、と考えると、適当なのがなくて困る。もっとはっきりいえば、私はひとに本をすすめるのが苦手なのだ。なにしろ、いままでひとに本をすすめて喜んでもら…

フィヒテ「全知識学の基礎」(上)

久しぶりに新刊書店に行ったときに買ったもの(木村素衛訳、岩波文庫)。新刊書店に行きながらこんな古い岩波文庫を買ってしまう自分が情けない。おもしろそうな本や話題の本はいっぱいあるのに、だ。だれかのエントリーに「貧乏人は古典を読め」とあったが…

奇妙な植物

http://d.hatena.ne.jp/comc/20070831コメントしようかなと思ったけれども、他人様のページにあまり下品なことを書くのもなんなのでこっちに書くことにした。ギリシャ語のaには「ありえない」というような意味もあるのかしら。「ありえないかたち」。なんか…

「世にも怪奇な物語」

とくに感想を書くつもりもなかったが、前回の記事があまりにめちゃくちゃだったので、少しだけ補足しておく。この映画、あらためて見るとやはり古くさい。それはとくにファッションにおいて顕著だ。この古くささは60年代、70年代の映画に特有のもので、…

DVDの魅力

長くかかっていた単純作業にようやくけりをつける。いささか鬱懐を消した、といいたい気分。この前、会社の近所のレンタルビデオ店で、レンタル落ちのビデオやDVDを安く売っているのを発見した。しかしDVDはともかくビデオはちょっと買う気がしない。…

仕事とドーパミン

はてなダイアリーの人気の記事にあがっているessaさんの記事はおもしろい。なるほどドーパミンね。そういうことには気がつかなかった。そういえば、まわりの人間を見渡しても、なんでこんなことに膨大な時間を費やして苦痛でないのか、とふしぎな気がするよ…

ボロヴツィク「修道女の悶え」

私的追悼の第一回。*177年製作のイタリア映画らしいが、タイトルロールはフランス語、そして音声はなぜか英語になっている。なんで吹き替え版をわざわざDVDにしたのか、という疑問はさておき、この映画は駄作の多いボロヴズィックの作品のうちでは出来…

追悼、ボロヴズィック

ワレリアン・ボロヴズィックが亡くなったらしい。それも去年の2月に。日本では訃報はまったく出ず、英語圏でもひと月遅れで発表されたらしいから、いかにこの監督の注目度が低いかよくわかる。まあ、撮っている映画にろくなのがないから仕方がない。「エマ…

火刑

……会社に来ているバイトの子の仕事ぶりにひどく腹をたてたおれは、彼の胸ぐらをつかんで「いったいどういうつもりか説明しろ」と詰め寄った。すると彼は、○○さんにそんなことをいわれる筋合はない、だってあなたというひとは……彼は驚いたことにおれのこの日…

ボロヴズィック「邪淫の館・獣人」

ノーカット、ヘア解禁版とのことだが、これを見たら、いままでこの映画を傑作、傑作といっていたのが恥ずかしくなってきた。まずこんな映画はだれにもすすめられない。家族で見るなんて論外だ。日本での劇場公開版は、スキャンダラスとはいいながら、かろう…

かつて見た映画の

DVDをまたしても買ってしまった(中古でだが)。この日記でも初めのほうに書いた*1ワレリアン・ボロヴズィックの「邪淫の館・獣人」がそれ。こうやって題名を記すだけでも指先がふるえ、ジャケットを眺めているだけでも胸がどきどきしてくる。まちがいな…

音楽現象学

クラシック百選が人気のエントリーにあがっているが、こういうものまでネタ扱いされるのがはてなのおそろしいところだ。しかし、その意図はどうあれ、こういった「○○百選」はおおむね実際の役にはたたない。というのも、こういう総花的なセレクションはひと…

フェラーラ・アンサンブル「美徳の華」

中世音楽のCDも10枚を超えたが、じっさいのところ「これはすごい」と思ったのはそんなに多くない。そんななかで1枚だけあげるとすれば、ウエルガス・アンサンブルの「フェビュスよ、すすめ」(ソニー・クラシカル)になるだろうか。これは演奏、選曲と…

ブルクハルト「イタリア・ルネサンスの文化」下巻

前に上巻だけ読んで放置していたもの(柴田治三郎訳、中公文庫)。ゲーテの影響で最近ちょっとイタリアづいているので、とりあえず下巻も読んでおこうと思って手にとった。いまさらわたくしごときがあれこれいう必要もない古典だが、この本、最近のルネサン…

ブクステフーデ「オルガン曲全集」

ブクステフーデといえば、バッハ伝のたぐいには必ず出てくる名前だが、恥ずかしながらいままで聴いたことがなかった。今回(といってもだいぶ前だが)Scarboさんの紹介があったので、それを購入してみた(BUXTEHUDE: Complete Organ Music, Walter Kraft, Vo…

ロバート・オルドリッチ「何がジェーンに起ったか?」

1962年製作のアメリカ映画。楳図かずお氏の「おろち」(姉妹)に霊感をあたえたというので気になっていたもの。しかし、じっさいに見てみると、両者はあまり似ていない。似ているのは、姉妹の愛憎を描いていることと、被害者だと思われていたほうがじつ…

宇能鴻一郎「味な旅 舌の旅」

私の好きな宇能氏の旅行エッセイ集(中公文庫、1980年)。もともと1968年に日本交通公社から出た本を文庫化したものらしい。日本全国、北から南まで縦断して、各地のうまいものを文字通り食い倒した記録である。私は食べ物エッセイはわりと苦手なほ…

紙と鉛筆

comcさんがラテン語を再開されるというので、そのページにあった呉茂一の入門書のリンクをたどると、下のほうに「この商品を含む日記」というのがあって、だれかのラテン語学習日記があがっていた。こんなものがあったか、と思って見てみると、もうずいぶん…