ジュウル・ルナアル「ねなしかづら」


ルナールの長篇小説だが、こんな内容だとは思わなかった、これではまるでポルノ小説ではないか。後半はずっともやもやのしっぱなし。十九世紀末版「危険な関係」ともいうべき小説(高木佑一郎訳、白水社、昭和12年)。

これはじつに不道徳な、けしからん本である。主人公のアンリはエゴイストを通り越してほとんどサイコパスといってもいいような人間で、彼は文学のことしか頭になく、女と色事をするときにも文学をやっているのだ。晩年にはどっかの村の村長をつとめたルナールも、若いころは危険な情熱に振り回されていたんだな、と思わせる作品。

この訳本には一部省略箇所がある。それは最後のほうの、主人公がヴェルネ夫妻の姪(十六歳!)を誘惑、強姦する場面だが、ここを省略してしまうとアンリの性格を理解する上で少しばかり欠落が生じる。時代のしからしむるところとはいえ、残念なことだと思う。

高木佑一郎の訳はすばらしく、知らずに読めば岸田国士の訳かと思うほどだ。