ポアンカレ「科学と方法」


ポオの「ユリイカ」と並行して読んでいたもの(吉田洋一訳、岩波文庫)。じつはこっちのほうを先に読了したのだが、感想が書きにくくてほうっていた。まあモノがモノだけに私が感想を書く必要もないのだが。

ポアンカレについてはとくに関心があったわけではない。数年前ポアンカレ予想で盛り上ったときも、数学好きの人からいろいろと話を聞かされたが、たいていは上の空で聞き流していた。ところが先日古本屋の棚でこの本をみつけてぱらぱらページを繰ってみて、これはやばいと思った。その文章がまったく巨匠と呼ぶにふさわしい筆致で書かれていたからだ。数学者でこんなすばらしい文を書く人がいたのか、というのがまず驚きだった。

内容はといえば、100パーセント理解できたわけではないが、高校程度の数学と物理の知識があればなんとかついていける。私はこれを読みながら、高校のころの授業のことを思い出していた。そしてあのころにこの本を読んでいたら、おそらく授業を受ける姿勢もまったく違ったものになっていただろうな、と思った。高校教師はこういう本のこともちょっとは授業中に生徒に教えてやるべきだ、きみたちのやっている勉強の先にはこういう世界が開けているんだよ、ということをさりげなく分らせてやるのも有効な指導の一つではないかと思うのだが。

それはともかくとして、私がとくに気になったのは、こういうすばらしい業績をあげた人々がほとんどすべてヨーロッパ人であることだ。アジア人は何をしとるんじゃい、と思うが、それに関連して著者はこう書いている、「げにも、ギリシャ人が蛮人を征服し、ギリシャ思想の相続者たるヨーロッパが世界に雄視するのは、蛮人が感官の刺戟のみにとどまる、けばけばしい色と太鼓の騒音とを好むに反し、ギリシャ人が感覚的美のうちに潜む知的美を愛したから、またこの知的美こそ知性を確実な強いものたらしめるものであるからにほかならないのである」と。

けばけばしい色と太鼓の音を好む私をして地べたに這いつくばわせるに十分な言葉だ。