中田耕治「メディチ家の人びと」

sbiaco2011-07-22



ツイッターをやっていたころ、歴史好きの人も何人かフォローしていたが、どういうわけかフランス革命のフの字も出てこなかった。フランス革命、もう今では人気がなくなったのだろうか。私が若いころは、「ベルばら」効果もあって、その方面の本はけっこうな数が出ていたような気がするのだが……

ルネサンスTLというのはあった。しかしこれも芸術家が中心で、それ以外となるとボルジア家の話がぽつぽつ出るくらいで、メディチ家についてはほとんど言及がなかったように思う。

で、そのメディチ家だが、正直いって私はこの一族には何の知識もなく、この本を読み出したのもまったくの偶然からだった。しかしこの本にいまめぐりあったのは僥倖としかいえない。おおげさにいえば、個々の芸術作品が吹っ飛んでしまうほど、メディチ家の歴史は変化に富んだ複雑な陰影をもっていて、それ自体がひとつの絵巻物のような観を呈している。日本語で読めるメディチ家の通史がほかにもあるのかどうか未確認だが、この本はこれだけでまとまった読み物として、私のような無知な読者には非常におもしろかった。

そのおもしろさの主要な部分を構成するのはいわゆる「裏面史」だが、しかしおもしろければそれだけ史実の「出所」が気になるわけで、そういった点における情報の開示ということになると、本書はあまり積極的でない。要するにどこから引っぱってきた話なのかが明記されていないので、話そのものの信憑性に疑問がつきまとうのだ。まあ、歴史書ではなくて歴史読物なので、こちたい傍証などはかえって興をそぐばかりかもしれないが。

本書の最後のほうにG・ラットレー・テイラーという人の言葉が引用されていて、その要点を述べれば、ルネサンス時代の暴力的な政治を担ったのは、こんにちでは精神異常者や犯罪者と呼ばれるたぐいの人々だった、ということになる。本書に顕著なのは、そういった異常者たちによって摘み取られ、踏みにじられ、やがて捨てられていく名花(貴族の令嬢や姫君)をいたむ著者の愛惜の念である。