フェラーラ・アンサンブル「美徳の華」

sbiaco2007-07-24



中世音楽のCDも10枚を超えたが、じっさいのところ「これはすごい」と思ったのはそんなに多くない。そんななかで1枚だけあげるとすれば、ウエルガス・アンサンブルの「フェビュスよ、すすめ」(ソニー・クラシカル)になるだろうか。これは演奏、選曲とも間然するところのない出来だ。なによりも一箇のCD作品(むかしふうにいえばレコード芸術)として渾然たる仕上りになっているのがすごい。これは強力におすすめだが、残念ながらいまでは品切で、中古屋で運よく手に入れるのが関の山だろう。私はアマゾンのポピュラー音楽のマケプレで安く売っているのを手に入れたが、なんでそんなところに出品されていたのかは謎だ。

さて、今回買ったCD("Fleurs de Vertus, chansons subtiles a la fin du XIV siecle", Ferrarra Ensemble, ARCANA, 1996)だが、これは内容的にはウエルガス・アンサンブルのものに匹敵する。フェラーラ・アンサンブルを知ったのはハルモニア・ムンディのオムニバス盤で、そのときは演奏の精度の高さに驚かされた。で、機会があればほかのものも聴いてみたいと思っていたが、これまた品切でなかなか手に入らなかった。今回買ったものはドイツのアマゾンのマケプレに出ていたもので、本体は安かったが送料が本体以上にかかってしまい、けっきょく4000円ほどの出費になった。しかし、これは無理をしても買っておいてよかったと思う。

まず一曲目、ジャン・シュゾワ(シュゼー)の「ピタゴラス、ユバル、オルフェウスは……」がすばらしい。この三人こそは音楽の父である、と歌い出されるその摩訶不思議な旋律のからみあいには陶然とさせられる。まさにここにはピタゴラス以来の秘教の伝統が息づいているのではないか、と思ってしまうほどだ。この曲はアンサンブルPANのCDでもいい演奏が聴けるが、フェラーラ・アンサンブルのものを聴いたあとではちょっと不満が残る。これはもう参ったというしかない名演。

ちなみにユバルとは旧約聖書に出てくる人名で、「創世記」4の20に「彼は琴と笛とをとる凡ての者の先祖なり」とある。

……とこの調子でやっていてはきりがないので、全体の印象をひとことでまとめると、声楽と器楽とのバランスが絶妙で、聴いていて飽きるということがない。選曲自体はウエルガス・アンサンブルのものに軍配があがりそうだが、これも慣れという要素を抜きにしてはうかつに判断をくだせない。なんといっても聴きなじんだ曲というのはつよく印象に残るものだからだ。作曲家(というか作者)はシュゾワのほか、ソラージュ、ジャン・ロベール、フィリッポ・デ・カゼルタなど私の好きな人々がそろっている。

こういうのを聴くと、このグループのハルモニア・ムンディへの録音も聴いてみたくてたまらなくなる。運よく出会うことができればいいのだが。