ブクステフーデ「オルガン曲全集」

sbiaco2007-07-15



ブクステフーデといえば、バッハ伝のたぐいには必ず出てくる名前だが、恥ずかしながらいままで聴いたことがなかった。今回(といってもだいぶ前だが)Scarboさんの紹介があったので、それを購入してみた(BUXTEHUDE: Complete Organ Music, Walter Kraft, VoxBox, 2004)。

これを聴いて思うこと。ブクステフーデが若きバッハに及ぼした影響は、じつは最晩年の「フーガの技法」にいたるまで途切れることなく持続していたのではないか。バッハはあの未完に終った大曲で、自分のルーツである北方的な精神に立ちかえったのではないか。そして、オルガンこそはそういう精神を具現化するためにうってつけの楽器だったのではないか、等々。

ゲーテはイタリアでオルガンの演奏を聴いたとき、ちょっと辟易したような口吻をもらしている。それは北方的なものから逃れようとしていたゲーテには当然のことだっただろう。それほどオルガンとドイツ(教会)音楽とは緊密に結びついている。ゲーテはそこに一種のしがらみのようなものを感じただろうが、われわれとしてはそんなものを感じるいわれはない。ただ大伽藍のような音の建造物の前にこうべを垂れるのみだ。

大伽藍といえばバッハのオルガン音楽にもそういう感じはあるが、バッハのがいわば外部から眺められた建造物だとするなら、ブクステフーデのはそれを内部から見上げているような趣がある。この奇妙な内部感覚は、マイナス面で考えるなら、やはりそこに「閉じ込められている」という印象をまぬかれない。たまに聴くのならいいけれども、ずっとこういうものばかり聴いていたのでは、ゲーテならずとも閉塞感に見舞われるのはやむをえない。

いずれにせよ、これらの曲集は真の巨匠の手になるものだ。オルガンが好きで、バッハの作品は聴きつくした、というような人が聴けばきっとなんらかの発見があるだろうと思う。