かつて見た映画の

sbiaco2007-07-31



DVDをまたしても買ってしまった(中古でだが)。この日記でも初めのほうに書いた*1ワレリアン・ボロヴズィックの「邪淫の館・獣人」がそれ。こうやって題名を記すだけでも指先がふるえ、ジャケットを眺めているだけでも胸がどきどきしてくる。まちがいなく自分がいままで見た映画のなかでいちばん影響を受けたもののひとつ。前にも書いたと思うが、この映画は自分の心にやけどのような印象を残した。印象というよりも刻印といったほうがいいか。それは映画のタイトルにあったように、黒地に赤い文字で「LA BETE」と銘打たれている。

さてこの映画、買うには買ったけれども、なかなか見ようという気になれない。それも当然だろう。映画館で見た作品をビデオやテレビで見なおしてがっかりしなかったためしがないからだ。それに、この映画のもつオーラ、それは自分の記憶のなかにだけあるものではないか。それが時の経過とともに肥大しているだけで、じっさいはそれほど大したものではないのではないか。そんな疑問が浮かんでくる。

それで思い出すのは芥川竜之介の「秋山図」だ*2。50年前に見た絵をもう一度見たとき、それが記憶のなかにあったものとまるでちがって見えた、というお話。50年前の秋山図はすでにイデアの高みに舞い上っていたわけで、それと比べれば実在の秋山図など見る影もないのは当然だ。同じようなことが今回の映画でも起らないとはかぎらない。

それならいっそのこと見ずに、ただ「所有している」というだけでがまんするか? いやいや、そんなことはできないし、したくもない。

というわけで、高まる期待と抑えようもない不安との板ばさみになっている。

*1:後日註。当該記事は削除した

*2:この掌篇といってもいいような作品は、まちがいなく芥川のベスト10に入る。こちらのページ]で読めるので、未読のかたは、ぜひ。