「フェリーニ 大いなる嘘つき」

sbiaco2006-03-07



これもたまたまレンタル屋で見つけたもの。「インテルビスタ」の続篇のようなものかと思って借りたが、だいぶ趣がちがう。「インテルビスタ」は虚と実とがわかちがたく混ざり合っていて、その混交がまさしく映画ならではの表現になっていたが、こちらは虚は虚、実は実とはっきり区別され、正統的なドキュメンタリーとしての性格をつよく打ち出している。

内容は、フェリーニのインタヴューを中心に、話の流れにそったかたちで彼の映画の断片が引用され、それに複数の関係者の証言をからませるというもの。そこからひとつのフェリーニ像が浮び上がってくる。それは撮影所における絶対君主としてのフェリーニであり、スタッフを意のままにあやつる催眠術師としてのフェリーニだ。彼の撮影現場には、古代の密儀宗教を思わせるような妖しい雰囲気がつきまとう。

彼は俳優に対してまともな演技指導などはやらない。そもそも、彼は俳優を一個の人間として扱ってはいない。彼にとって俳優とは生きて動くマリオネットにほかならない。では、そのからくりの糸は何かといえば、もっぱら自分の目と手の動きだけなのである。「サテリコン」の撮影場面を見るとよくわかるが、彼はその目と手とによって俳優に催眠術をかけている。術をかけられた俳優は、自分の意志とは関係なく、フェリーニの思うがままに演技してしまう。

たいていの映画作家は、このありさまを見たら、とてもかなわないとシャッポを脱ぐだろう。自分たちのやっていることがまるでままごとのように思われてくるだろう。さんざん研究され、模倣されたあげく、ついに凌駕されない巨星として、フェリーニはいまだにその輝きを失っていない。