マラルメ「牧神の午後」散文訳(その1)


あのニンフたちを永遠に自分のものにしたい。夢ともうつつともつかぬ空の下で、彼女らの軽やかな肌の色は、なんとあざやかに宙に舞っていることか。

おれが愛したのは夢だったのか。

夜ごと積み重なるおれの疑いは、いまや多くのかぼそい小枝になってしまったが、しかしこの枝の集合がやはり本物の森であることには違いなく、それを思えば、いままで自分が勝ち誇ったように抱いていた薔薇についての考えが、まったく一人よがりの間違ったものだったことがよくわかる。

じっくり考えてみよう。

そもそもおまえのなじっている女たちこそ、おまえの架空の官能が願ってやまなかったものの実現された姿ではないのか。その幻影は、あのいとも清らかな女の青く冷たい目から、まるで涙の泉のように流れ出たものだ。ではもう一人の、ため息ばかりついている女のほうは、おまえの羊毛をかすめる真昼の風のように、まったく違った種類の女なのだろうか。いやいや、そんなはずはない。

さわやかな朝の大気を圧しつけるような、不動の、けだるさに茫となってしまうこの暑さのもとでは、水のささやきすら聞こえない。聞こえるのはただ自分の笛が木立にそそぎかける調べだけだ。おれが笛に吹きこめる一陣の風は、二つの管から出て、乾いた雨のように音を撒きちらす前に、早くも空へと消えてゆく。その風は、皺ひとつ動かない地平線に、目にみえる、晴れやかな人工の息吹、霊感の息吹となって、空へと立ち昇ってゆく。

おれの虚ろな心が太陽と張りあって荒らしまわった静かな沼沢の地、火花が花のように舞い落ちる下でものいわぬシチリアの岸辺よ、さあ、思い出を語ってくれ。