ヴィム・ヴェンダース「都会のアリス」

sbiaco2006-03-17



非常に後味のいい作品。しかし、この後味には一抹の悲哀感がともなう。この手の悲哀感は、時間がたつとともに純化され、いうにいわれぬノスタルジーをあとに残すものだ。見終えてしばらくたったいまも、いくつかのシーンを思い出すと、せつなさに胸が痛くなってくる。

孤独な魂のつかのまの出会いと別れ。主人公のふたりは、別れたあとそれぞれの人生を歩んでいくのだろうが、しかし彼らのその後の人生はけっして幸せを約束されたものではない。ギターのかなでるものがなしい響きがそのことを暗示している。

ヴィム・ヴェンダースのものは、「パリ、テキサス」や「ベルリン、天使の詩」なども見たけれども、どちらもあまり記憶に残っていない。それと比べると、今回のものは長く記憶に残りそうな予感がある。これは映画そのものがすぐれているというより、たんに5年ものブランクのせいで映画に対する感受性が鋭敏になっているいまの自分の状況によるものかもしれないが。

この映画はロード・ムーヴィーというジャンルに属するらしい。ロード・ムーヴィーとは何だろうか。ひっきょうそれは「道と出会い」に極まるものだろう。現実の放浪では、道だけあって出会いのないものが大半を占めると思われるが、映画のなかの放浪にはつねに実り豊かな出会いがある。こういった作品で、いまも鮮烈に思い出すのがフェリーニの「道」だ。あの映画はロード・ムーヴィーの元祖のような作品だった。

もうひとつ、「都会のアリス」を特異なものたらしめているのは、主人公の片方が少女だということだ。もちろん、主人公はハンバートではないので、「ロリータ」のような展開にはならないけれども、それでも一歩まちがえばそのようになる要素がないわけではない。そのことは、いくつかのシーンが暗示的に示している。そういうところも見どころのひとつだろうか。そういえば、「ロリータ」の後半は一種のロード・ムーヴィーとして見ることもできるものだった。