レオン・パジェス「日本切支丹宗門史」
とりあえず上巻のみ読了(吉田小五郎訳、岩波文庫)。これはいろんな意味で読むのがつらい本だ。奇妙な表記の人名が頻出すること、註の活字が細かくて読みにくいこと、訳文が直訳体で文意がたどりにくいことなど、いくつも難点があるが、いちばんの難点は残酷描写が生々しすぎることだろう。そういうものにはある程度なれている私でさえ辟易するほどのものだ。宗教史というよりほとんど殉教史である。
キリシタンの迫害があったことは歴史などで習ったから知っているが、ここまでひどいものだとは思わなかった。こんな悪夢のようなことがあったとは信じがたい。そして、この悪夢をさらに堪えがたいものにしているのが、キリシタンたちの驚くべきマゾヒズム気質だ。彼らは刑吏に対して無抵抗はおろか、よりむごい拷問を嬉々として(?)望んでいるかにみえる。日本人にはこういった宗教的マゾヒズムの素地のようなものがあったのだろうか。これにはヨーロッパ人の神父も驚いて、彼らを「精神的(霊的の意味か)狂人」と呼んだほどだという。
「(火刑の)火は点ぜられた。……感心な童貞マグダレナ(18歳くらいの少女)は、燃えさかる燠(シャルボン)をかき集めて之を頭に載せ、『尊敬のしるしに頭に載せまする』とでも言っているかのように見えた。彼女は、主が与え給うた無限の聖寵を感謝し、その燠を愛し拝んでいた。やがて頭を右手にもたせたまま息が絶えた」
これはジャンヌ・ダルクと比べてもなおりっぱな最期だとはいえないだろうか。キリスト教は渡来してから半世紀になるやならずの新しい宗教だったが、それでもこのような熱狂的な信者を多数獲得したのだった。いったいここで日本人の心性に何が起ったのだろうか。当時の仏教が腐敗しきっていたことを考え合わせても、腑に落ちないことが多すぎる。