ヴィシネフスカヤのロシア歌曲集

sbiaco2006-06-18



ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。名前をみただけで一種の風格がただよう。私には縁遠いロシアのオペラ歌手らしいが、彼女がムソルグスキーの「死の歌と踊り」を歌っているというのでCDを買ってみた。EMIから出ているGREAT ARTISTS OF THE CENTURYというシリーズの1枚。

このCDには、ムソルグスキーのほかにショスタコーヴィッチのふたつの歌曲集とオペラの断章がはいっている。ショスタコーヴィッチといえば、なにか小難しい前衛的な作曲家のような気がしていたが、この歌曲集を聴くかぎりではけっしてそんなことはなく、むしろ親しみやすくてアットホームな雰囲気のただよう曲を書く人のようだ。

まあ、ショスタコーヴィッチのことはさておくとして、ムソルグスキーの歌曲集について書こう。前にこの曲集のことを「恐怖音楽」だと書いたけれども、これはまるきり見当違いとはいえないにせよ、あまり的確な呼び名ではなかった。なぜなら、この曲集であつかわれている「死」は、恐怖の対象であるとともに、一種のノスタルジーの対象でもあることが、ヴィシネフスカヤの歌を聴くことでよくわかるからだ。

ショスタコーヴィッチによるオーケストラ編曲も、けれん味のないあっさりしたもので、ヴィシネフスカヤの歌をやさしく包みこむように歌う。これがまたこの曲集に牧歌的なあたたかさを与えている。いずれにしても、先のドレームス盤とはえらい違いだ。同じ曲でもアレンジによってこうも変るかという好例だろう。

ヴィシネフスカヤの歌唱については、声だけでその場を支配してしまうようなオーラをもっている。ヴィブラートがふかいので、ときとして音程がずれているように感じられることもあるが、そんなことはものともしない圧倒的な存在感をしめしている。ディーヴァというよりはほとんど女傑といったほうがふさわしい。その意味でも非常にロシア的な歌手だと思った。