「100年前のパリI」

sbiaco2006-06-24



マール社から出ている「100年前シリーズ」の一冊。図版多数で1000円そこそこという値段につられて買ってみたが、本を開いた瞬間、しまった、これは失敗だ、と思った。というのも、写真図版の印刷がどうにも満足できる水準ではないのだ。古い写真特有のフォトジェニー(写真の精霊?)がほとんど感じられない。白っぽけたコピーみたいな感じで、写真というよりは質のわるい銅版画みたいだ。

しかし、まあ1000円なら仕方ないか。そう思ってあらためて図版を眺めてみると、やはり100年前のパリはすごかったと思わざるをえない。いまのパリも魅力的な町にはちがいないが、それでも100年前とは比べものにならない。いまのパリの景観を汚しているものの筆頭にあげられるのが、自動車と外国人(おもに旧植民地出身の人々)だが、100年前にはもちろんそんなものはない。通りや広場も人の数が少なくて広々としている。道ゆく人々の服装もエレガントでシックで、どの一人をとってみてもみごとに絵になっている。

こんな絵のように美しいものに取り囲まれて生活していれば、ことさら美術品なんていうものは必要なかったのではないか、と思ってしまう。それにしても、なんという羨むべき人々だろう。彼らは美の都にあって、自分たちもその美を演出するのに一役かっていたのだから。

とはいっても、ごく一部の意識的、先端的な芸術家をのぞいて、大多数の人々は自分たちがとくに恵まれた環境にいるとは意識していなかっただろう。なにしろ彼らにとってはそれが日常、常態だったのだから。そのとくべつな芸術家というのが、印象派の画家たちだった。彼らはおそらく本能的にこのパリの美が長続きしないことを察知していたのではないか。それでとりつかれたようにエフェメラの美をキャンバスに定着しようとしたのではないか。後知恵かもしれないが、どうもそんな気がする。