マヌエル・デ・ファリャとパコ・デ・ルシア

sbiaco2006-06-10



マヌエル・デ・ファリャの作品のうち、ロルカの「すばらしい靴屋の女房」の世界にいちばん近いのが「七つのスペイン民謡」だ。これは形式的にはリートやメロディと同じくピアノ伴奏による独唱だが、そのピアノ・パートがちょっと変っていて、あきらかにギターによる伴奏を模したものになっている。私がよく聴くのはゴンサロ・ソリアーノのピアノとビクトリア・デ・ロス・アンヘレスの歌によるもの(EMI)。ソリアーノのピアノはちょっと訥弁で歯切れがわるいのだが、ロス・アンヘレスの歌は無類にすばらしい。やはりこういう歌になると、本場ものは他と一線を画しているようだ。

ファリャはアンダルシアの音楽(フラメンコ)を脱色してインターナショナルな音楽との融合をはかったようだが、そんな彼の音楽をもとのアンダルシアの土壌に戻そうとする試みもある。パコ・デ・ルシアの「炎」(フィリップス)がそれだ。これはたぶんパコの作品のなかでも最高傑作のひとつだと思う。フラメンコ・ギターの大技、小技をこれでもかとばかりに繰り出して、全篇にドゥエンデみなぎる異様な世界をつくりあげている。

しかし、ロルカにしろファリャにしろ、魅力的なことは認めるけれども、そこからさらに一歩踏みこんで全身的に溺れたいと思うほどではない。林達夫のように、ロルカを読むためにスペイン語の勉強をしようという気にはなれないのだ。美術のほうでも、ゴヤエル・グレコもベラスケスもあまり好きな画家ではない。そういえば、一度訪れたスペインという国自体、あまりいい思い出がない。

こうしてみてくると、スペインの文物は私にとってあくまでもスパイス的な要素にとどまるようだ。それはつまり、ドビュッシーラヴェルの曲にあれわれる、まがいもののスペイン趣味で十分だということだ。