詩王とは何か

私は「詩王」という訳語しか知らないのだが、どうやらあまり一般的でもないらしいね。たしかに仏ウィキペディアでも扱いは軽いし、おそらく桂冠詩人ほど権威のある称号ではなくて、詩人たちの仲間うちだけの決め事ではなかったかという気がする、それは詩壇というものがあって、それが社交的・社会的な機能をもっているフランスならではの制度といってもいいかもしれない。

これについての文献は捜せばあるのかもしれないが、ネットには皆無ですね。しかしいままでなかったからといって、あきらめるのは早い。ほんとに日進月歩なので、もしかしたら明日検索したら何かでてくるかもしれない。

ここでちょっと脱線するが、「詩王」ならぬ「道化王」というのがあって、ヴィヨンの詩にも少しだけ言及がある。その説明を鈴木信太郎がやっているので、少し引用してみよう。

Prince des sots
道化の座頭

道化芝居 soties を上演した道化師たちの座頭であるが、これは職業的俳優ではなくて聖職者 clercs の団体であり、バゾーシュ Basoche に属する。

バゾーシュというのは、裁判所に属する聖職者によって作られた特権を所有する組合 corporation であって、十三世紀末、あるいは十四世紀初頭から始まり、一番初めにシャートレーのバゾーシュが結成され、まもなくそれに倣って、会計検査院のバゾーシュや、各地方地方のバゾーシュ(そのもっとも有名になったのはピカルディのバゾーシュ)ができた。これらのバゾーシュ(裁判所聖職者組合)は、聖霊降臨祭その他のお祭りのとき、賑やかに景気をつけるため、芝居を演じた。この芝居を組織するためにバゾーシュの中から選ばれた演戯統率者をPrince des Sots 道化の座頭と称んだ。

と、こういうものらしい。これからヒントを得て Prince des poètes ができたんじゃないか、と私は思っています、はっきりした根拠はありませんが。

ヴィヨンついでに書いておけば、中世のバラッドには最後の詩節に必ず Prince という呼びかけがある。このプランスがだれ(何)を指すのかは場合場合によって異なるようだが、一般的には選者の君、すなわち歌合せにおける主宰者のような人を指している。この Prince が発展して Prince des poètes になったんじゃないか、というふうにも思われる。

いずれにしてもそういう仲間内の称号なので、一般的にはあまり重要視されておらず、その結果扱いも軽くなっているのではないか、とこれは私の想像なので、あまり参考にはならないだろうけど、いちおう書いておきます。