Narthekopherとは

sbiaco2008-01-30



独訳版「モネルの書」の最初のほうにNarthekopherという言葉がでてくる。ふつうの辞書には出ていないが、バイイのギリシャ語辞典には載っている。といっても、「おおういきょうの枝をもつ(人)」というだけではなんのことかわからない。ネットで調べてみると、それらしいのがみつかった。このページにある。

ざっと訳すと、「ナルテコフォロス。原意はおおういきょうの杖をもつ人。バッカスの異名。バッカスはしばしばこの木の杖をもった姿に描かれた。おおういきょうの枝はもろくて軽いので、バッカスは酒飲みたちにこれを棍棒(杖?)としてもたせ、酒の熱にのぼせてけんかになったとき、殴り合いをしても怪我のないようにした」とのこと。

バッカスの持物(じもつ、アトリビュート)としてはテュルソス(thyrsos)というのがあるらしいが、どうもこれはバッカスのものというより、バッカス信者の持ち物とみたほうがいいみたいだ。こっちはたいていの辞書に載っている。

以上、どうでもいいようなことだがいちおう書いておく。


(追記、1/31)
comcさんがこちらで言及してくださっている。そのなかにウィキペディアの紹介があって、その英語版をみて上記の疑問が(ほぼ)氷解した。なるほど、バッカスではなくてむしろプロメテウスなんだな。そう考えると「モネル」本文の前後関係もすんなりと納得できる。なにしろ「天与のferuleで地上を焼き払って、第二のnarthecophoreになれ」というのだから。

いずれにせよ、どんな辞書でも記述を鵜呑みにしてはいけないということがよくわかった。とくに古い神話辞典のたぐいは要注意だ。上に引いた"Dictionnaire abrege de la fable"もまたその例にもれない。といっても、べつにけなしているのではない。こういういいかげんな(?)辞書にもそれなりのおもしろさはあるのだから。

コラン・ド・プランシーの「地獄辞典」なんかはその最たるものだろう。この辞書でバッカスを引くと、バッカスこそは古代のサタンであり、ルシファーである、疑うものはバッカナリアを想起せよ、これはまさしく古代のサバトではないか、と書いてある。ほんとうかどうかはさておき、おもしろい見方だと思う。