ユイスマンス「ロココ・ジャポネ」
お前さん、ちょいとわたしの話をきいておくれでないか、黒い瞳の、三つ編みに結った、色の白い、やんちゃな小さい女狐さんや。
ほんにまあ、耳のへんまでつりあがった、ふしぎな目をしてなさる。口はななかまどの実のようにまっかじゃ。ほっぺたはまるまるとして黄いろい。その曲がった脚も、こわばった胸も、真珠母の殻みたいにきらきら光るそのとがった長い爪も、なんともいえずかわゆいことじゃ。
めんこい女狐さんや、わたしゃいとしうてならぬ、そなたのぐんなりしたのんきな風情も、ものうそうなほほえみも、なげやりな姿も、媚をふくんだしぐさもな。
甘えんぼうの女狐さんや、いとしうてならんわい、そなたの猫みたいな声も、しゃがれただみ声も。じゃが、わたしが死ぬほどいとしう思うておるのは、そなたの鼻じゃ。波のようにうねった髪のあいだからちんまりと出ておるその小さい鼻じゃ。黒い茂みのなかにぽっちりと咲いた黄いろいバラの花じゃ。