「カリガリ博士」

sbiaco2007-02-03



いわずと知れたロベルト・ウィーネの名作(1919年、ドイツ)。いま見なおすとちょっと稚拙に思えるところもあるが、やはりすばらしい映画、愛すべき映画のひとつであることに変りはない。ただ、どうも画質が荒くて、明暗のコントラストがきつすぎるのが玉に瑕だ。冒頭のシーンなんか、むかし映画館で見たときは息をのむほどのポエジーを感じたものだが、今回はちょっとどうも……

まあ、映画館で大画面で見るのと、家で小さい画面で見るのとでは、同じく映画を見るといってもまるきり違う。前者が体験だとすれば、後者はどこまでいっても経験の域を出ないだろう。もっとも、これがさらに小さくなって、You tubeの動画くらいにまでなれば、それはそれで別種の趣があるといえる。なんとなく映像を「囲い込んだ」というような気になれるからだ。しかしこれはもはや体験とも経験とも別の、たんなる知見というべきものではないだろうか。

さて、この映画についてはすでに多くのことが語られていて、それらはネット上でも見ることができると思う。ここで屋上屋を架す必要もないだろう。ポオの「タール博士とフェザー教授の療法」や夢野久作の「ドグラマグラ」との類似や相違についても、しかるべき人がなにか書いているに違いない。

いずれにせよ、これら三つの作品がかたちづくる三角形の内部はひとつの磁場だ。真人間はこういうところにあまり近づかないほうがいい。それは美であるとしても、見るものを石化させる「メドゥーサの美」だからだ。プラーテンの「美わしきもの見し人は、はや死の手にぞわたされつ」という詩句をふと思い出す。