蒲松齢「聊斎志異」


夏といえば怪談、ということで、お盆の時期ははずしてしまったが、蒲松齢の「聊斎志異」を手に入れた(人民文学出版社)。これは全体の十分の一ほどの選集で、古い刊本の挿絵が添えられている。この挿絵と、それにつけられた賛(?)だけ眺めていると、いかにもシナふうの幻想に浸れるのだが、本文をみると、横書きのうえに簡体字が使ってあるので、シナ趣味なんていう風流なものはどこかに吹き飛んでしまう。志怪小説というよりもむしろチャイニーズ・ゴースト・ストーリーといったほうがぴったりするような本だ。

ところで、こんな本を買っていながらいうのも気が引けるが、自分は中国語はまったく解さない。もちろん中国文なんか読めるわけがない。

それでもあえて買ったのは、この本が文言小説だから。文言というのは、日本でいう漢文のことだ。漢文なら、中学以来、少しは習って知っている。それともうひとつ、中国語を知らない人間が漢字ばかりの本を読んだらどうなるか、という興味もある。

で、実情はどうかといえば、なんともいえず読みづらい。この読みづらさの第一の原因は、簡体字が使ってあることだ。せめて古典くらいはちゃんとした正字で印刷してほしいと思う。日本でも古典は正字正かなで、というのが基本だろう。それがあるべき姿だし、なによりも中国は「文字の国」として世界に冠たるものがあるのだから。

しかし、ここで文句をいっても始まらないので、しかたなしに漢和辞典のうしろにある簡体字の一覧表をみながらぽつりぽつりと読んでいる。こんなふうに読んでいると、まるで怪談らしくない。いや、内容そのものが日本でいう怪談ではなさそうだ。字づらだけ見ていても、そこはかとなく艶かしい雰囲気がただよってくる。これは夏の暑いときに読むよりも、秋の夜長に読むのにふさわしいような本だ。

もっとも、いまのスピードで読んでいたら、読み終わるころには秋もふけて冬になっているかもしれない。