「牧神の午後」散文訳(その3)


だから、逃避の楽器よ、いたずらものの葦笛の精シランクスよ、もう一度あの湖で若々しい花を咲かせておれを待っていてくれ。自分の評判が自慢のおれは、女神たちについて長々と語ろう。そして偶像のように熱愛する彼女らを絵に描いて、その影像から帯までもすっぱりはぎとってみせよう。

さて、快活なふりをして抑圧していた未練の情を払いのけるため、光に輝く葡萄をすすっていると、思わず笑いがこみあげてきて、おれは空になった葡萄の房を天に差しあげ、酔いたい一心でそのきらきらした皮に息を吹きかけ、夜になるまで左見右見(とみこうみ)する。

ああ、ニンフたちよ、もう一度あの「思い出」で体を満たそうではないか。

「おれが葦の茂みを透かして、ニンフたちの不滅の肉体に矢のようなまなざしを投げかけると、彼女らは火傷でも負ったかのように波に飛びこんで、森の空に怒りの叫び声をあげた。水面にただようみごとな髪が光とざわめきのうちに沈んでいくさまは、まるで宝石をぶちまけたかのようだ。おれはあわてて駆けよった。

「と、足もとに、二人の眠る女が(女どうしの密かごとを楽しんだあげく、疲れに息もたえだえになって)、大胆にも互いに腕をからませたまま横たわっていた。おれは二人を抱きあったままの姿でひっさらって、とぼしい木蔭しかない、日に焼けてからからに乾燥した香りを放つ薔薇の茂みへ飛ぶように走った。そこでおれたちが繰りひろげた痴態は、燃え尽きた太陽にもたとえられようか」

おれはあの処女らの憤りを愛する。ああ、聖なる裸のお荷物の、なんと猛々しい至福であることか。二人の女は身をすべらせて、肉の秘密のおののきを、まるで電光がひらめくように、呑みつくしてしまおうとするおれの熱い、火のような唇を避けようとする。子供らしい気持からいちどきに突き放された二人は、狂乱の涙か、あるいは涙ほどには悲しくない体液の滲出で、つれない女の足から、おずおずしたもう一人の女の胸のあたりまでしとどに濡れて。

「おれの罪は、女たちの思いがけない恐怖心を打ち負かしてやろうとみだらな気持になり、神々によってしっかりと縺れあわされたもじゃもじゃの毛叢をかきわけて、そこに接吻したことだ。というのも、ひとりの女のけっこうな肉体の襞のしたに痴れ笑いを隠そうとするやいなや(そのときおれは、小さいほうの、無邪気で顔さえ赤らめない女を指一本でささえて、彼女の羽毛のような純真さが、体をほてらせた姉の心の動揺に染まっていくことを期待していたのだが)、この漠とした仮死状態にぐったりとなったおれの腕をふりはらって、あのどこまでも不実な二人の獲物は、おれの嘆きには目もくれず逃げ去ってしまったからだ。おれはしばらくその嘆きに酔ったようになっていた」