倒逆睡眠法


ちょっと時間に余裕ができたなかな、と思ったとたんに過酷な業務命令が下って、またしても魚が水面であぎとうような生活に戻ってしまった。もうこの状態がおれにとっての常態であって、余裕ができるなんてのはよほどの僥倖だと思っていたほうがいいのかもしれない。それでも社内では余裕のありそうな顔だけはしている。たんなる強がりだけれども、それがないとほんとペシャンコになってしまいそうなのだ。一種の断熱膨張で、じっさいひどく疲れるんだが……

まあいい、日記でも書いて落ち着こう。

仕事のシフトが変るにつれて、睡眠時間も変える必要がでてきた。つまりいつもより早寝しなくちゃならないんだが、なかなかこれがむつかしい。長年の習慣みたいなものがあって、一定の時間にならないと寝付けないような体質になってしまっているらしい。とはいうものの、次の日のことを考えると眠らないわけにはいかないので、なんとか早く眠る方法はないか、と思っていろいろ試してみたが、いまのところ次の方法がいいようだ。

まず、寝よう寝ようとあせっていると、眠気というのはまずこないこと。理由はよくわからないが、おそらく心理的に緊張の状態にあるために目がさえてしまうんだろう。

それなら、寝ようと思わずに、寝ちゃいけない、朝まで眠らずこうやって布団のなかで待機してなくちゃならない、というふうに考えたらどうか。これもリアリティがないとうまくいかないので、なにか夜通し待機の状態にいなくてはならない架空の口実をつくってみる。そして眠気よ、来るな、おれは明日の朝まで起きてなくちゃいけないんだ、と自分にいいきかせていると……

……知らないうちに眠っている。これはほんとのことだ。人それぞれ向き不向きがあるから万人にすすめるわけにはいかないが、夜寝られなくて困っている人の参考になれば幸いである。

だいたい人生というのは、こうしたい、こうなればいいと思っているとその逆のことが起る。それならば、こうなりたくないと思っていることを祈念すればもとの希望がかなうのか、といえばそううまくは行かないようだ。しかし、睡眠に関してはこの方法(倒逆祈願法とでも名づくべきか)はけっこう有効だと思う。