村岡花子のブック・レヴュー


「少女の友」に村岡花子による山川弥千枝「薔薇は生きてる」の書評が出ていたので、ここに載せておく(昭和13年2月号)

 この本の著者やちえさんは世に亡い少女です。普通でしたら私は著者の名の上に「故」とつけ、そして名前のあとにも「遺著」と書くはずかも知れません。けれども、どうしてもそんな文字を使いたくないのです。なぜ? 「薔薇は生きてる」ではありませんか。ほんとうに、彼女は今なお生きています。この少女を知っていた人々の心の中に否、一度も逢ったことのない私たちの心の中にも、このかわいらしい作品集を読む一人一人の胸の中に山川弥千枝さんは強い愛情を呼び起さずにはいないのです。みなさんがこの本を読んで何よりも嬉しく感じなさるのは、これがあなた方と同じ少女の心の記録であることでしょう。

 これは並はずれて鋭い感覚を持って生れた少女の十六年の心の生活なのです。絵も歌も詩も童謡も、そして読んだ書物の批評も、日記も、どの一つを読んでもそこに、少女の魂のありのままの姿が彫りつけられています。ここにこそはみなさん方自身の心の反響があるのです。

 かわいらしい眼で周囲のすべてを観察し、莟のような口から鋭い批評を吐く利発な近代少女がこの一冊の中に躍っています。あなた方が読むだけでなく、お母様たちにもぜひ読ませてあげたい本でございます。


なお、彼女の本の抜粋をつくる試みは下記で引き続きやっているので、興味のある方はぜひご覧ください。