シュオッブの遺稿集


去年(2009年)、マルセル・シュオッブの遺稿集が出たことをいまごろ知る。「マウア(Maua)」という題の本で、内容はかなりエロチックなものらしい。私もシュオビアンのはしくれとして、とりあえず発注しておいた。近日中に読めると思う。

かつてピエール・シャンピオンがこの原稿の一部をシュオッブの伝記(「マルセル・シュオッブとその時代」、1927年)で紹介したことがあって、そのときは「マウア」でなくて「モナ」という表記になっていた(MauaでなくてMona)。たしかに手書きの原稿はaとo、uとnなど読み違えやすい。

その一部というのはこんな内容のもの。

サモアで過ごした時間のことを彼はほとんど手紙に書いていないが、小さい散文詩、習作のような愛の歌があって、彼はこれを帳面に書き写している。

《そのとき、モナは船の甲板に横になった、小さい耳の上にハイビスカスの赤い花をさして。撫でるような風が僕たち二人を包みこんだ、海は重々しく輝き、月はつつましやかで、索具の揺れる音のする物蔭は二人にうってつけの場所だった。おお、ツシタラ、いらっしゃい、歌を歌ってあげましょう、とモナは言った、それからこれ私の指環です、お取りなさい。そう言って彼女は指環を僕の指にはめた。僕は彼女のそばに転がって、体をふるわせながら、そのハイビスカスの花を、耳のすぐそばの黒い髪もろとも噛んだ。するとモナは歌を歌った。O tusitara, tala, tala, talofa, talofaa, Samoa, O tusitara matamata Mona, ohi alii。僕は彼女の快活な手をとって、手のひらの匂いをかぎ、それを口にあてた、そして自分の手を彼女の乳房に押しあて、彼女のふとももに向って寝そべり、そのふとももの間に、おお、モナ。すると島々の香りが二人のほうへ漂ってきた、それは僕たちがアポリナへ近づきつつあったからで、海のたゆたいと愛の憧れとが、僕の魂を波のうねりの頂点で屑折れさせた。赤い花がふるえていた──おお、モナ タロファ、海の上の物蔭で二人の体がふるえるそのとき……》


じっさいサモアでこんなラヴ・アフェアがあったのだろうか。あったとしてもふしぎはないが、どうも架空の話のような気がする。なにしろ彼はこの地で重患にかかって、ほとんど死にかけていたのだから。

ちなみにツシタラとは「語り部」という意味のサモア語で、スティヴンソンがこの名でサモアの人々に親しまれたことは比較的よく知られている。