ブロゴスフィア演戯


「久しぶりにアクセス状況を見てみたが、あんまり変化はないようだな。だいたい10人前後が見にきてくれているようだね」
「しかしきみは三年もやってるんだろ。それで10人とはちょっと寂しいな」
「たしかにね。でもまあこれで堂々と過疎ブログを名乗れるからいいんだよ」
「バカいっちゃいけない。そんなのは過疎ブログのうちに入らない」
「そうなのか」
「そうだとも。おれのとこなんか、1ヶ月に二人しかこなかった。しかもそのうちの一人がおれだよ。こういうのをほんとの過疎ブログというんだ」
「へえ、きみがブログをやっていたとは知らなかった。どんな内容?」
「純然たる日記だ。掛け値なしのね」
「それにしても1ヶ月に二人とはねえ。ふつうは検索で間違えて来る人が何人かいるもんだが」
「おれの日記には固有名詞はいっさい出していないからね。検索にも引っかからないというわけだ」
「それはすごい。上には上がいるもんだな」
「下には下が、といいたいんだろう」
「いやいや、皮肉じゃなくて、すごいと思うよ、そこまで徹底的に検索を免れるとは」
「ググル先生を出しぬいてやったみたいで気持がいいよ」
「そういう点ではぼくのはダメだな」
「ところが、そんなおれの日記でも、カウンターは10000を越えている」
「いかにカウンターがいい加減かよくわかる」
「いや、そうじゃなくて、初期のころ、いきなりアクセスが急増したんだ。開設して一週間たたないうちにね。どうしたことかと思って調べてみたら、2chに晒されていた」
「純然たる日記が晒されることもあるのか」
「はじめのころはウィタ・セクスアリスみたいなことを書いていて、それがだれかに見つかって、興味をもたれたらしい。やっぱりエロはみんな関心があるんだね」
「なるほど、そういうことか。おれのとこでもエロネタを書けばもうちょっとアクセスがふえるかな」
「まあ、いっときはふえるけど、エロでアクセスをかせいでもね。おれもそのうちばかばかしくなって、ぜんぶ削除してしまった」
「あらら、もったいない。おれも読みたかったのに」
「いや、とても知り合いには見せられないよ。人格を疑われるからね」
「そんなやばいことを書いていたのか」
「子供時代のあれやこれやを、虚実とりまぜてね」
「そうだ、エロはやっぱり子供時代にかぎるね」
「うん、二十歳すぎたらとたんにつまらなくなる。鴎外の小説もそのあたりで終っているし、芥川のも中学生くらいまでだよ」
「子供時代のエロといえば、ムッツェンバッヘルの自伝をまた読み返しているんだ。今度はドイツ語でね」
「「ペピの体験」の原作だね。これは邦訳もよかった」
「あれは復刊される価値があるね。とはいっても、いまでは児童ポルノ法にひっかかりそうだが」
「あれでみると、聖職者や教師の生態がむかしからちっとも変っていないのがよくわかる。まったくもって「うらやましからん」連中だ」
「そういう意味でも、ますます復刊しにくい状況なんだろうね。まあ、いずれにしろ、ドイツ語をやっていると、こういうものにつきあえる利点もある。それに、この小説の続篇に「365人の恋人たち」というのがあって、どっちも安くアマゾンで買えるよ。なかなかしゃれた作りの本だから、きみも買っておいたらどうだい」
「買っても読めないんじゃ、あんまり意味はないけどね」
「だから、これを買ってドイツ語を勉強するのさ。語学の勉強にはエロ本がいちばん、という説もあるくらいだからね」
「そんな不純な動機でドイツ語をはじめていいんだろうか」
「不純じゃなくて、純も純、根本説一切有部だよ。なにもカントやフッサールをありがたがるばかりが能じゃない」
「そうだね、まあ気が向いたらやってみるよ。それじゃ」