バッハ「無伴奏チェロ組曲」


DHM50枚組のうちの2枚(演奏はヒデミ・スズキ)。この曲集、断片的にはこれまでもちょくちょく耳にしていたが、まとめて聴くのは今回がはじめてだ。

で、はじめて聴いた感想だが、「とりつく島もない」というのが正直なところ。なんだろうね、この手応えのなさは。こういってはわるいが、この作品は純然たる練習曲として書かれたのではないだろうか。つまり指のために書かれた曲であって、耳のためのものではない、と。

バッハの場合、指のための作品が最高の芸術性を兼ね備えていることが多いので、このチェロ組曲もそうなのではないか、と思いたいところだが、残念ながら事実はそれに反する。嘘だと思ったら、同じく無伴奏のヴァイオリン曲とくらべてみるといい。ヴァイオリン曲の最低のものが、チェロ曲の最高のものと同等、くらいではないか*1

しかしまあ、このボックスセットにヴァイオリンではなくてチェロを入れてくれたのはよかった。こういう機会でもないと、なかなか全曲を聴く気にはならないだろうから。

スズキさんの演奏する楽器は十七世紀に作られたものらしい。音はといえば、チェロというより低音のヴィエルという感じだ。古楽器はアンサンブルではかなりの効果を発揮するが、独奏となるとちょっと分がわるい。たぶん弾きにくさも相当なものなのだろう。複雑なパッセージになると、もう弾くだけで精一杯という感じがありありと出ている。

こういう曲は古色を重んずるよりも、鳴りのいいモダン楽器で思いきり演奏したほうがいいのではないか。曲が無個性なぶん、楽器の魅力が最大限に引き出されるように思うので。


(追記、7/21)
本文で「とりつく島もない」と書いたが、低音楽器の愛好家である私がそんな弱音を吐いていてはいけないのではないか。そう思いなおして、好意的な耳でしつこく聴いてみた。

耳慣れもあるかもしれないが、いちおう「とりつく島」が見つかった。

第1番の3曲目、6曲目
第2番の3曲目
第3番の2曲目、3曲目、6曲目

このあたりから徐々に全体を攻めていきたい。

それと、本文で無伴奏ヴァイオリン曲と比較しているくだりはわれながら無茶なことを書いたものだと思う。全面的に撤回します。

*1:それすらもかなわないような気がするが